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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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世界滅亡説とか多すぎるのはなぜ~。

というのとは関係ないのですが、四代目ネタ。
長くなってしまったので、二つにわけておきます。

拍手もぽちぽちありがとうございますっ!
もしお礼文など御望みあらば、カプなりシチュなり教えいただけるとこっそり書くかもです。

鵜山と鈴木の過去話。




 鵜山がクラス転校してきたのは、四年生の時だったはずだ。
 やたらと雨ばかりの鬱々とした日だった。外で遊ぶような連中が教室に引きこもるうえに、僕をストレス発散の相手にするものだから、梅雨は嫌い
だ。
 鵜山が教室に足を踏み入れた時、ざわついていた教室が静かになったのは彼女の頭に包帯が巻かれていたからだろう。それにくわえて近づきにくい空気と淡々とした自己紹介とくれば、興味があっても声はかけにくくて当然だ。

 僕は一瞬だけ鵜山を一瞥し、外を見た。雨なんて早く止めばいいのにと考えていた。


 学校の法則として、弾かれた人間は弾かれた人間で集まるというのがある。
 クラスでグループを組む際、担任に言われる前に鵜山は僕の傍に来た。黙って空いた席に座ったのだ。

 それまでずっと一人で行動して、声を掛けられても一言程度、もしくは首でしか返事しない鵜山は暗いと言いたくなる存在なのに、そうは言えなかった。わかりやすく言うと眼力が凄かったのである。

 見定められているような気はしていた。
 だからこそ、僕は絶対に目を合わせないことに決めたのだ。

「あなたの話を聞いたわ」
 嘲笑でも野次馬でもない声。

「あなたは魔法を信じる?」

 頬杖をついていた手を離す。
 雑談と授業内容が入り混じった雑音と外の雨で、世界は騒音だらけだ。
 隣の席を除いて。

「魔法なんてあるわけない」

 僕は鼻で笑った。真偽を問われるような二つの目を見返して、どうせ誰かが僕のことについて話したのだろうと思った。
「そう」
 鵜山の答えはそれだけだった。それ以上の追求はない。
 落書きひとつないノートを机に広げる。話はそれで終わりだろうかと思った。

「なんで?」

 昔ならまだしも、今の世の中は科学が進んでいる。幽霊はプラズマで、妖怪は創作で、天使や悪魔は言い訳だ。
 周りがそう言う。多数決がそれを信じるなら、それが真実だ。
 例え、僕が天使を見ていようとも嘘にしかならない。

「魔女と住んでるって聞いたから」

 それは一緒に住んでいる叔母のことだろうなと、ため息が漏れる。
 元々は祖父母と暮らしていた。しかし、祖母が亡くなり、祖父が行方不明になったため保護者がいなくなった。それを引き受けてくれたのが現在同居中の叔母なのだが、自称魔女なのである。僕が一度も会ったことがないと言えば、それは山に隠れていたからだと答えた人だ。
 信用できるわけがない。それでも祖父に頼まれたと言われたなら、諦めるしかなかった。

「天使の子どもが魔女だなんて、笑えるだろ?」

 祖父は天使だ。僕の空想や妄想でもなんでもなく事実そうなのである。
 白い羽が生えているのを僕は見たし、庭で虫の息だった雀の傷を一瞬で治すのも見た。
 それを嬉々として語れば、鼻で笑われ、頭がおかしいと言われ、説明を重ねる度に胡散臭くなるものだからどうしようもなくて、僕はようやく伝えるのを諦めた。

「いいえ。とても素敵な話だと思うわ」

 女子特有の柄のついた筆箱とは縁のなさそうなそれ。銀色一色のシャープペンを鵜山は手に取った。
 ちっとも笑みも浮かべず、何も変わらない表情を眺めて、それがどういう意味なのか僕は考えた。答えなんて見つかるはずもない。
 僕は鵜山について知らない。鵜山だって僕のことを詳しく知っているわけじゃない。

 それなら、真意を探るなんてことは不可能だ。情報が少ない。
 僕もノートを広げる。
 授業内容を進めながら、不意に目に入った鵜山の消しゴムのケースの下に、手書きで模様が書かれているのが見えた。

 その日の帰り道、あれは叔母が電話中に落書きするあの星型の模様によく似ているなと思い出したのだ。


 人を呪わば穴二つ。

 叔母はそう言いながら、僕が学校での出来事を話す度に人を呪う方法を教えてくれた。
 笑いながら、ある時はどこの国の言葉かわからない歌を口ずさみながら。
 僕はそのどれも右から左へ聞き流して、向かいに座る楽しそうな叔母の顔を眺めていた。

「私は魔女だからねぇ。誰も救えないかわりに、攻撃することができるのさ」

 罵られるのも怖がられるのも当然なこと。ただ、やられたらやり返す。
「憎しみは憎しみで返すのが私のやり方だからねぇ。お前はどうする?」
「ほっとく」
 泣きじゃくるのは面倒だと気づいた。傷つかないわけでもないけど、それも人間だから仕方ないということで勝手に決着をつけた。
 祖父は僕に天使の血が流れていると言った。それなら、僕はそれらしく人を許さなければいけないのだろう。

「そうかいそうかい。難儀だねぇ」

 本当にねぇ。

 ため息がつきたくなるのは日常茶飯事。
 ついでに鵜山の話をしてみれば、叔母は急に目を輝かせて、麺棒で回していた虫の死骸を放り投げた。

「恋なら私が手伝ってあげよう!」

「断る。恋なんてしてない」
「みんな最初はそういうものさ。認めたくないんだろう? ガキは可愛いねぇ。いいからいいから、そのウヤマって子の話を聞かせておくれ」
 今日会ったばかりの転校生について知っていることなんて、たかが知れている。

 ただ、この一日は簡単に流してしまうには勿体ない日だったと思った僕は、思い出すついでに叔母に鵜山のことを話した。

 無口な転校生。彼女の質問。消しゴムの模様。転校初日で誰も近づけない空気。変わらない表情。平淡な声。

 いつか連れておいで。魔女は舌舐めずりをしながら口にした。
「きっと、とてもいい子だろうね」
 どの『いい子』なのか。僕にはわからなかったが、少なくとも夕食にラーメンが出るほど叔母の機嫌がよくなったのは確かだろう。


 僕に向けられる攻撃なんて、だいたいが悪口や嫌みだ。
 暴力を振るわない辺りはまともなのかなと思ってはいた。
 誰かの声は消そうと思えばどうにかなる。さすがに面と向かって言われたものに対しては防ぎようがないけれども、どうにかこうにか。
 嘘つきと言われるのが一番嫌なのだけど、それはもう僕の二つ名のようなものだから仕方がない。あれだけ祖父は天使なんだとか言っていたのだから、そういうことなのだろう。

 けれども、はぐれ者の鵜山がいつの間にかいじめられっ子になっているというのは、どうにも腑に落ちない。
 理由なんてあっただろうかと記憶を探ってみるが、転校初日からこれまでの一カ月を振り返っても全く思い当たらなかった。
 彼女に声をかける女子は何人かいたが、その相手に対して相変わらず愛想がいいと思えない鵜山の対応が原因にしては、やられていることが酷いなと思う。

 笑いながら数人の女子がトイレから出て来た時は、そんなにたくさん女子トイレには個室があるのかと考えた。あまりにも醜悪な笑みだったから耳をすませてみれば鵜山を個室に閉じ込めたらしい。定番の如くバケツが転がっているのが廊下から見えた。

 なんか安いドラマみたいだなと、僕は廊下で考える。

 本来なら先生を呼ぶのがベストかもしれない。
 僕には友だちがいないし、男子が女子トイレに入るなんて問題だ。
 ただ、先生に頼ろうと考えるほど、僕は彼らに信頼を置いていない。

 大人が嫌いなわけではなくて、先生という人種が嫌いなのだ。

 チャイムの音が聞こえて、廊下に出ていた生徒が教室に戻る。
 いつの間にか廊下には人が居なくなった。そのうち、担任も来るだろう。
 僕は座っていた窓の桟から降りた。
 梅雨時期はとうに過ぎ去って、昔より短くなった夏休みが近づくほどに暑い。

「本当、じいちゃんには参るよ」

 天使なら困っている人間は救うべきだ。それなら、僕が行くしかないではないか。


 作業は至って簡単。ドアを止めていたデッキブラシをどかして、中を開けるだけだ。
 さすがの鵜山でも泣くのかと思っていたら、彼女は閉じた便座の上で膝を抱え、蹲っているだけだった。
 もう頭の包帯はない。それが何を隠していたのか、鵜山の前髪で隠れていて見えなかった。それと同じように、彼女の表情は水の滴る髪の毛に隠されている。
 足元に広がる濁った水に涙が混じっていても僕にはわからない。

「大丈夫?」

 被害者側しか知らない僕はかけるべき言葉もなく、一番普通っぽい最悪な質問を投げかけた。
 答えもなければ、嗚咽もない。

 ひょっとしたら、鵜山は困っていたわけではないかもしれない。

 彼女のことは今でもよくわからなかった。
 このまま突っ立っていていたら、誰かに見つかった時に僕のろくでもない評判が一つ増えてしまう。
 鵜山が閉じ込められていた問題は解決したことだし、僕がこの状況なら惨めすぎて放って置いて欲しいと思うだろう。出て行くことに決めた。

 そう思って廊下に出ると、ひんやりとしたものに手首を掴まれる。
 振り返った先、デッキブラシを持った鵜山がいた。

「なに?」
 かたつむりみたいに鵜山の足が踏んだ場所を水が流れている。

「ここにいて」

 声は僅かに震えて聞こえた。
 相手は鵜山だ。これは錯覚なのかもしれない。
「理由は?」
「怪我、して欲しくないから。お願い」
 お願い。と言われると従うしかない。
 というのも、鵜山が僕に何かを頼むのも誰かにお願いする場面も見た事がなかったのだ。
「別にいいけど」

「ありがとう。鈴木くん」

 それを最後に手は離れ、僕は言われた通りにその場に留まりながら、鵜山の動きを目で追った。
 僕らの教室はこの階の左端だ。曲がり角はないから、廊下から教室が見える。
 鵜山は揺らぐことない足取りで、水を垂らしながら教室に入った。

 悲鳴と教師の怒声が聞こえたのはその直後、割れるガラスが廊下に散る。
 僕は窓の桟に腰かけて、運動場を眺めた。
 授業がないのか、誰も居ない。蝉が鳴いている。清々しい青空。

 無傷の僕は耳を澄まして、鵜山の声が一つも聞こえないことを不思議に思った。

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