食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。
悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!
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某所のプリンさん(仮)の方によくしてもらった結果がこれです!
ありがたい話です。本当、元の勝手さにさらに勝手をやらかしている妄想なので。
そんなわけで、
悪魔と鵜山と鈴木の話。
ありがたい話です。本当、元の勝手さにさらに勝手をやらかしている妄想なので。
そんなわけで、
悪魔と鵜山と鈴木の話。
「ラーメンなら先にそう言えよ!」
両手で頭を押さえながら現れた悪魔は鈴木くんを睨んでいたが、呼ばれた理由を聞いてすぐに笑った。
「食べ物なら何でも好きなくせに」
悪魔相手だと同じことを言っても鈴木くんは楽しそうである。
動物を相手にするのと同じ顔をしているのだから、彼にとって悪魔はペットと変わらないのだろうかと考えてしまうのだ。
しゃがみこんで、悪魔の柔らかそうな頬を緩むのを見る。私もつい真似しそうなるのだけど、本物に近づけないうえに上手くいかない。
そういうのが少し寂しい。
古本屋から歩くこと二十分で辿りつくラーメン屋は、地獄亭という物騒な名前がついている。それでも味は悪くない。むしろ、近所ではおいしいと評判だった。
店内はちょうど人の入れ替わりのタイミングで、すぐに隅のテーブルに通された。
私と鈴木くんが向かい合わせに座ると、私の隣を選ぶ悪魔がまた可愛い。
「女たらしだと言われますよ?」
「うるせぇ! 隣に座ったら何されるかわかんねぇんだよ!」
摘まみ回された頬を真っ赤にしながら、悪魔が叫ぶ。
仮にこの悪魔が動物で柔らかい長毛だった日には、鈴木くんは迷わず引き寄せていたに違いない。小学校の時に私の家にいた老犬は、彼にくっつかれて迷惑そうな顔をしていたのを覚えている。
「言い訳せずとも、契約するなら女性がよかったと言えばいいじゃないですか」
その言葉に対して、悪魔は意外にも反論しなかった。
メニュー表を広げながら、私は隣を見る。
俯いた耳が真っ赤に染まっているのを見ながら、それが怒っているわけでないのに気づくと抱きしめたくなるほど可愛く見えるものだ。
「契約してくれるんだったら、お願いしたいくらいだわ」
「なっ!」
驚いて顔を上げる悪魔と同時に、向かいの席の鈴木くんがお冷で噎せたようである。
「お、おまっ、意味わ、げほっ」
「そんなこと言われると、心が揺れるじゃねぇか」
頬をかきながら悪魔は言って、それから真剣な眼差しで私を見る。
「悪魔に願いたいことでもあるのか?」
「あるわ」
呼吸を整えた鈴木くんには、私の言葉が冗談ではないとわかったようだ。その視線に気づきながら私は答える。
途端、悪魔は笑みを消した。一瞬だけ鳥肌が立つのを感じながら、私は膝の上に置いた手を握る。
「そういう嘘は駄目だ。つけ込まれるぞ」
低い声音を出して、悪魔はすぐにいつもの笑みを浮かべる。
嘘ではないと思った。ただ、自分の全人生を捧げるかと問われれば、嘘なのかもしれない。
「なんて、俺、ちゃんとした契約とかしたことねぇし」
テーブルに身を乗り出してメニューを見ながら、悪魔は些細なことのように口にした。
「そういえば、僕とも契約してませんね」
考えて見れば、最初の鈴木くんの願いを悪魔は断っている。それはそれで、何か別の願いをして契約したのだと思っていた私としては初耳の話だ。
「そうなの?」
トッピングに迷っている悪魔ではなく、鈴木くんを見る。
「そうですよ。悪魔と契約するには羊皮紙が必要ですから」
いつでも同じ地獄ラーメンを頼む鈴木くんは、メニューを一切見ずにそう答えた。
「契約するとしたら、代償は魂かしら?」
世界滅亡以外に鈴木くんが願うことなど想像できないが、一般における悪魔のイメージはそれだ。
「悪魔くんに出てくる悪魔は金でしたね。一番新しい話は悪と戦うことそのものが代償になっている気もしますが、そんな異形の悪なんて現実にはいません」
「病原菌ウィルスとかはどうかしら?」
毎年話題に昇るのはインフルエンザである。そうでなくても今まではなかったウィルスの話をテレビで見る機会は増えたように思った。
「病原菌ウィルスと戦うヒーローですか……どこかの絵本みたいなことを言いますね」
「それも一種の平和を望む行動ではあると思うわ」
「間違ったら僕が感染するので、勘弁してもらいたいものですね」
呆れたように言った鈴木くんは割り箸を取る。目を細めて中心を見極め、二つに割った。
「ウィルスねえ。そいつと戦うのは人間のすることだ。悪魔がそれに関与するとするなら、直接ウィルスを殺すんじゃねえな。本人の自己治癒能力を上げるか、失った機能を再生させるぐらいだ」
割り込んできた声は、先程までメニューを眺めていた悪魔から発せられた。
「願いに制限でもあるんですか?」
「そういうわけじゃねえよ。けどよ。人間から病気が無くなったら」
悪魔はそこで口を結んだ。
「なあ、ここって辛いラーメンしかないのか?」
捲ったページが最後だったらしい。悪魔はそう言って顔をしかめる。
「甘くして欲しいなら、店員に言えばいいじゃないんですか?」
笑いながら鈴木くんが言った。
「……仕方ねぇから、半分だけもらう」
「そのための大サイズなんで心配しないでくださいね」
一瞬、キッズメニューを薦めようとして、悪魔の年齢が見た目と同じとは限らないことを思い出した私は口元に手を当てた。
「ごめんなさい。今回は誘うべきではなかったわ」
悪魔は甘いもの好きだが、辛いものが好きではない。
誘うことに意識が向いてしまっていて、忘れてしまっていた。
「なんで謝るんだ?」
私を見て、悪魔は心底不思議そうな顔をして首をかしげる。
鈴木くんがため息をつく。呆れるのではなく、楽しそうに口元を緩ませた。
笑えない私は喜びもろくに表現はできずに、その光景を眺めていた。
結局、鈴木くんは悪魔の言いかけた続きを聞かなかった。
私はそれを見て聞くのをやめた。
病気が無くなれば、人間の願いは減る。それは悪魔には不都合な話だ。
悪魔は人の願いを叶え、代償を得る。
当たり前の話。けれども一見単純なそれを私はまだ実感できていない。
悪魔はやっぱり悪魔らしくなくて、鈴木くんは楽しそうで、私は――。
二人と別れた後、玄関で立ち尽くしたまま、そんなことを考えた。
「私は――」
リビングから聞こえる騒がしいテレビの雑音を耳にしながら、持っていた鞄を握り締める。
「『楽しくなんてなかった』」
そう言って笑う私は、ただの嘘つきだ。
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