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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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先週の後半から嬉しいことが多くて、とても救われました。
某所にサイトのリンクがあったのに今更気づいて、ちょっと動揺。恐縮ながらも嬉しいです。ありがとうございます!

数日前に同じ個人的四代目ネタをアップしようとして、データーがアップできずにふてくされていたのですが、どうやら忍者ツールで設定変更があったみたいです。
やり方を変えれば、大丈夫だったので次からこの方法でアップしたいと思いますです。

前回の更新が去年ですが、気まぐれな私得更新ので不定期万歳。

鵜山と鈴木の古本屋で寄り道編。





 本棚にある本たちは、どれも持ち主を離れてやってきたものだ。
 拒絶されたのか、離されたのかはわからない。それでも誰の手にも渡らないまま、新しい誰かを待ち続ける本であることは確かだった。

 出会うべくして出会う。すべては縁だ。意味を持って、絡まる糸。意図。

 手にとって時に運命は回る。影響する。ささいなもので、今は何もないかもしれないけれどもそれはいつか現れる。

「過大評価だと思いますよ。ただの自己満足でしかない紙媒体ごときに、そんな力はないんじゃないですか?」

 行きつけの古本屋。私は彼と一緒だった。彼とはつまり、悪魔くん(推測)の鈴木くんである。
 平凡な名字だとは思うけれども、彼の声を鈴と例えるのなら納得できた。誰かの耳に届くと音を鳴らす。心のどこかをノックして、本来の言葉の意味や悪意よりも癒しを与える。

 残念ながら通常時において、私には影響しない声だ。
 だから、今の言葉が私の考えに対する批判であることはわかる。

「けれども、あの本はこの店で見つけたわ」

 すべての始まりの本。古びたゲーテの『ファスト』の中に入っていたメモ。謎の図形と見た事のない文字。
 それをすぐ悪魔に関係するものだと思ったのは、その本の内容が悪魔を召喚するものだったからだろう。

 どうしてあの時、鈴木くんに渡さなければと思ったのかしら。

 意味がわからないと、元に戻すことだってできたはずだった。

 それでも私は縁を信じてる。

 本当に悪魔が呼び出せるかどうかを考えるより、鈴木くんが祖父は天使だったと言っていたのを思い出したのだ。
 馬鹿にされる可能性も考えた。鈴木くんはひねくれ者で疑り深い。けれども、そのメモの文章を見て、彼は試してみましょうと言ったのだ。
 そうして、私たちは悪魔を呼び出した。今は傍にいない小さな人の形をした悪魔。
 指で本棚をなぞりながら、私は適当に本を取る。いつも何か探そうと思ってくるわけではない。タイトルや作者名を見て、何か頭でひっかかった時にそれを手に取るようにしている。その感覚で本を手にしたことを後悔したことはない。
 隣に立つ鈴木くんは手持無沙汰に、目の前にあった厚めの本を手に取った。

 相変わらず、古本屋にしては本よりも別の匂いがする。どこかで嗅いだことがあると思うのに、この場に来るとどうしても思い出せないのだ。
 古書は指で触れたら壊れそうで、捲る度にページをバラバラにしないかと不安になる。捲り終える度にほっとして、再び訪れる緊張。その繰り返しは嫌いではなかった。

「お前は終わったものが好きなんですか?」

 基本、本を読んでいる時に話しかけられるのは嫌いである。
 しかしながら、意図的なのか偶然なのか、鈴木くんは私の集中力が途切れた時に限って声をかけてくる。

 顔をあげると、彼は持っていた本のページを捲っている最中だった。
 返答に困るよりも先に一瞥されたので、本に持っていかれた魂を取り戻すように私は息を吸った。

「誰かに読まれるのなら、それは終わったとは言えないわ」

 例え、作者がもうこの世には居ないとしても物語は死なない。
 後世に残るというのはそういうことだ。
 誰かが本を開き、それを想像し、記憶する。本来の形とは別になることもあるだろうが、そうすることで登場人物たちは生き続ける。

「お前はロマンチストですね」
「あなただってそうでしょう?」

 天使の存在を肯定し、悪魔の存在を信じて召喚した。

 それは周囲からすれば、私よりもずっとロマンチストだと言われるのではないのだろうか。
「その眼球は仕事を放棄しているようですね。医者に診てもらった方がいいんじゃないですか?」
「素直に認めればいいのに」
 ため息まじりに言って、私は本を棚に戻す。

「帰るわ」

「人を誘うなら買うものを決めてからにして欲しいですね」
「初めて誘われたわけでもないのに、よく言えたものね。最初から断ればいいじゃないの」
 奥に座った店主をちらりと見る。中に入った時から一歩も動いていないようだ。
「断る理由もなければ、友だちが居なさそうなお前にサービスしているんですよ。むしろ、感謝してくれませんか?」

「友だちが居ないのはあなたも同じでしょう」

 古本屋から出ると辺りが徐々に染まっていく途中だった。
 私に友だちが居ないのはとっつきにくいからだという自覚していた。それでも現状を変えようと思わない。私と付き合ったところでその相手に何の利益もないのだ。

 後ろの鈴木くんに関しては、彼が一人で居る時にだけ声をかけている。どちらかというとその声ゆえに人が寄ってきやすいのにも関わらず避けているのは、彼の小学校時代が原因なのかもしれなかった。

「ラーメンでも食べに行きましょうか?」

 斜め後ろで空を見上げている鈴木くんに声をかける。
 彼は晴れた日に雲を目で追う癖があった。私の記憶によれば、出会った頃からそうだったと思う。当初は泣きそうな顔で見ていたものだが、今はそういうことが無くなった。

 それは成長したと見るのが正しいのかもしれない。
 あの頃みたいに感情だけで突き進む事なんて、今はできないのだ。少なくともそういうことはしてはいけない。誰かに迷惑をかけたり、不快にさせたりすることは避けるべきだ。

「嫌です」

 しばらくの間を置いて、鈴木くんが私を見た。
 明らかに嫌な表情である。ただ、彼を不快にさせることを私は気にしていない。

 鈴木くんは嘘つきだ。

「そう。なら、あの悪魔くんと行くことにするわ」
 あの可愛い悪魔なら、二つ返事で頷いてくれるだろう。
 出掛けるのが好きというか、誰かと違って誘うと喜ぶのだ。
「お前は悪魔が相手でも怖がりませんね」
「あなたは怖いの?」

 違うでしょう。

 悪魔に一番会いたがっていたのは鈴木くんだ。ほんとうに見たかったのは天使だったのかもしれないが、天使は天の使いであって誰かと契約することなんてない。

「僕はお前に聞いているんです」


 怖いと思わなかったというのなら、それは嘘だ。
 最初は焦った。召喚したのが本当に悪魔なのだとしたら、私が恐れていたことになってしまう。
 私は鈴木くんが間違いを犯さないように一緒にいるのだ。本末転倒である。
 幸いなことに、彼の願いを悪魔は聞き入れなかった。

「私はあの子のこと好きよ」

 黙っていると近づきにくいとは思うが、話しかければ笑ってくれる。
 それだけで十分だと思えた。それは好意の象徴である。
「無害である演技。という可能性をお前は考慮しないんですね」
 音の高さが低くなるのを感じながら、どうやら私は問い詰められているらしいと気づいた。
「心配してくれているのかしら?」
「まさか。ただの忠告ですよ。騙されて気づいても遅いですからね」
「嘘でもいいわ」
 考えずともするりと出た答えに、鈴木くんはやや面を食らったような顔をした。

「私が勝手に信じているだけだもの」

 それを裏切られただとか、責め立てるような真似はしない。
 わざとらしいため息とともに、鈴木くんが肩を落とした。
「お前は馬鹿ですね」
「あなたよりはまともだと思っているわ」
 かといって、何でもかんでも信じているわけではない。

 自分なりに相手は選んでいるつもりだ。
 あの悪魔はきっと信頼に値する。それが嘘でも彼は悪魔なのだから、それはそれでいい。
 少なくとも今は無害で、笑ってくれるのだから、それでいい。

「誰も何も信じないなんて、つまらない」

「楽しいことなんて何もないような顔して、よく言いますね」
「そうね。けど、本当にそう思っているのだから、疑うのなら勝手に疑うといいわ」
 鈴木くんにとっての私の価値は私には査定不能だし、強制する理由もない。
「それより、行くの? 行かないの?」
「行きますよ。あの悪魔がどこに居るかもわからないくせに、よくもまあ誘うなんて言えますね」
 不機嫌そうに鈴木くんは言って、制服のネクタイを緩めた。
「いざとなれば、探すだけよ」
 女性というものはだいたい執念深いものである。

 だから、私は覚えているわ。

 鈴木くんが忘れていそうなことも忘れてしまいたいことも、一緒にいる間からなら覚えている。
 彼の深呼吸を聞いて、目を閉じた。

 悪魔を呼ぶ音楽。奏でられる声はやはり綺麗だった。


END


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