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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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そんなケーキショップがあったら行ってみたいので、ご存知の方がいらっしゃったら教えてください。
今、とってもガトーショコラが食べたいです。もしくは、ザッハトルテ。

拍手ありがとうございますっ!
最近、こっちばっかりで申し訳ないです。

鈴木と悪魔と鵜山の話。


 持っていた携帯電話を閉じる。先程まで聞いていた声とは真逆の雑音が一気に押し寄せてきた。

「どうだった?」

 服の裾を握り締めて見上げる悪魔は、やたら不安そうな顔をしている。
 ガードレールに座りながら、電話の相手とこの悪魔の行動について考えてしまった。

 タイミングがよすぎる。

「来てくれるみたいですよ」
 それでも追求はせずに悪魔を安心させてやれば、すぐに笑顔になる。
 ガッツポーズをする子ども悪魔から、目の前にあるファンシーな看板の店へ目を向ける。
 帰り道で悪魔を呼び出したのは、単純に鵜山が先に帰ってしまっていたからである。
 彼女がいるとよけいな相手に捕まらずにいられるのにと残念に思いながら、誘ってくる女子を丁重に拒絶して、それでも嬉しそうになる彼女たちに気持ち悪さを感じてしまったのは数十分前。
 結果的に癒しを求めて悪魔を呼び出したというわけである。
「断られたらどうしようかと思ったけど、優しいよなぁ」
 ひたすらこねくり回された頬の赤さはそのままなので、自動ドア越しにショーウィンドウを眺める姿は恋をしているようにも見えた。

 まあ、好意には違いない。

 自動ドアの横ではパティシエ姿のシロクマが泡だて器片手に笑っていた。その隣に張りだされたポスターには、『女性限定セール中!』と丸っこい字で書かれたポップが掲げられ、下には具体的な商品名と半額以下の値段が記載されている。

 数十分前、それを見つけた悪魔が釘付けになったあげく半泣きになって、鵜山の呼び出しを要求してきたのだ。
 異論らしい異論は唱えたもののそれは建前である。
 口に出したことはないが、彼女はケーキが好きだ。小学生時に給食で出たものを女子なら好きだろうという理由で押しつけた時に、その表情が僅かに動いたのを見逃しはしなかった。

 些細な変化ならある。問題はそれを上手く拾いきれるかどうかで、鵜山のことを全部知っているわけではなかった。

 あの時、素直に嬉しかった、というと誤解を生みそうだ。

 この声になって気づいたのは、特別な能力がなければ自分は人を動かすことなどできないのだということだったのだ。

 だから、というわけではないけど。

 考えれば考えるほど誤解を招きそうな思考を断ち切る。
「断らないと思いますよ。僕が頼むならまだしも」
 鵜山の返答は早かった。悪魔に頼まれて電話したと言った時点で決まっていたのか、そういう気分だったのかまではわからない。

 ただ、何かよからぬことがあったのは確かだ。

 開いたままの携帯電話で時間を見ながら、周囲を見渡す。
 鵜山が家に真っ直ぐ帰ったのか、寄り道をしたのかがわからない以上、どれくらいで現れるのかはわからない。

「日頃の行いの差だな!」

「そうですね」
 胸を張る悪魔がかわいいなぁと思いながら答えれば、興をつかれた顔をされた。
「認めるのか?」
「悪いことが好きなだけですよ」
 多少の制限をかけずにいられるのなら、今だって悪魔を放置して帰ってもいいぐらいだった。そうしたら、鵜山が気にするのはわかっている。

「……悪魔みたいだ」

「悪魔になれたら召喚する必要もなかったんですけどね」
 それが本心なのだと鵜山の前では言えたものではない。
 壊してしまいたいと願うことは、彼女にとっては好ましいことではないらしい。
 真面目と片づけるには、その理由が強そうな気がしてならないんですが。

「……それを願うっていうのなら、それでもいいぞ?」

 上目遣いに顔色を伺う悪魔が小さく喉を鳴らす。
 携帯電話を閉じると世界を断絶した気分になれそうだった。
「しませんよ」
 作り笑顔を見せれば、悪魔は一瞬だけ顔をしかめた。

「一応、自分の血筋が完全に嫌いなわけではないですし」
 面倒ごとばっかりで疲れるだけなのもわかってはいたが、それで祖父を全否定してしまいたくはなかった。
 人には優しく嫌がることはするな、という当たり前のことをいつも言われた。場合によっては異を唱えたものだが、あれほど話をじっくり聞いて諭してくれたのも祖父だけだ。

「それに逆らおうとするのは……」

 悪魔はそこまで言って、急に身体を左に向けた。
 殺気の真顔が一転にして笑顔になって右手を大きく振るのを見れば、何が起こったかすぐわかる。
 この距離でよくわかるなと思っていたら、人波をかき分ける鵜山の姿が視界に入って来た。
 慣れた動きに、どれだけ一人で行動して急いでいたのかわかるというものだ。

「待たせてしまったかしら」

 そう言った鵜山の髪の毛と制服が乱れていた。僅かながら肩が上下している。
 ただ、急いでいたというよりも動揺していたとしか思えないかった。
「呼び出したのはこっちだからそんなこと気にすんなよ! いきなり呼び出してごめんな」
 悪魔が鵜山に申し訳なさそうな顔をする。
 彼女はその場にしゃがみ込むとその手袋越しに両手首を掴むと、緩やかに首を振った。

「謝らないでいいわ。呼んでくれてありがとう」

 腫れとは別の意味で真っ赤になる悪魔に、そんな風に言われたら仕方ないなと思った。
 二人が何やら話している間に、周囲に意識を向けた。

 これは思った以上に参ってるな。

 誰なのか、何のかはわからないが、近くに怪しい人がいるなら関係している可能性は高い。
 ただ、今のところ気になる人物も視線もなかった。

 そういえば、家庭環境がどうとか聞いた覚えがある。

 細部が思い出せないということは、脳内審議の結果、ろくでもないうえに信憑性がないと判断したということだ。

 ――殺したんだって。

「鈴木くん?」
 声をかけられて顔あげる。そこで自分が俯いていたことに気づいた。

 殺す、ね。

 覗き込む目の奥を見透かすことを考えたが、やめておくことにする。

「お前に誘惑されても僕は揺るぎませんよ?」

「何を意味のわからないことを言っているのかしら?」
 この手の話題を嫌う鵜山が声の音程を下げた。

「素直にスカートの端っこが捲れてるって言えねぇのかよ」

 嘆息混じりに助け船を出した悪魔に、鵜山が自らの服装を見直した。慌てて指で整える。
「故意にそうしているかもしれないじゃないですか」
 油断のあまりいつもの女子相手に切り返すつもり口にしたとは言えず、適当に誤魔化した。
「わざとはねぇだろ」

 僕も同感だ。

 心の中で肯定して先に足を踏み出せば、悪魔が羞恥で顔を覆う鵜山に大丈夫だと声をかけて手を引いた。

 楽しませるのは悪魔がずっと上手だ。自らが不向きだということは理解しているし、それを彼女が求めていないことはわかっている。
 詮索したところでマイナスの感情を引き出すだけなら、鵜山が幸福よりもそれを望んでいたとしても聞くべきではない。

 僕はやっぱり滅亡を望みたいところだ。

 全部無くなってしまえば、それ以上もそれ以下も0の空白に飲み込まれてしまえば、幸福も不幸も関係ないのだ。

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