食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。
悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!
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相互作用というのはあるなと毎度のように思いながら、刺激を受けるのは大事だなと感じております。
筆が進む時とそうでないときの落差が自分では見分けられないのですが、某所を見てたら彼らを書きたくなってしまいました。
初期設定から変更点が多々出てしまっているので、また修正版をあげられたらいいなと思っております。
今回は鵜山とある人のお話。
ずっと迷っていたのですがお名前を出してみました。
筆が進む時とそうでないときの落差が自分では見分けられないのですが、某所を見てたら彼らを書きたくなってしまいました。
初期設定から変更点が多々出てしまっているので、また修正版をあげられたらいいなと思っております。
今回は鵜山とある人のお話。
ずっと迷っていたのですがお名前を出してみました。
あなたが殺したのよ。
そう言った姉の血走った目やその後に続く言葉はたった一言の補足でしかなかったが、内部を刃物で切りつけるような気がした。
そこから溢れだしたものがどこに行ったのかわからない。ただ、その時の私の服は赤茶色に汚れていて、きっとあの赤と一緒に地面に溶けていたらいいと思った。
そうして二度と現れなければいいのにと願って、願いは中途半端に叶ったからこその今だ。
感情は消せない。でも表情は消せる。
それで隠せるのなら、今は、それで。
深呼吸をしてから鍵を回す。家に入るのは緊張する。今日は居るだろうか、今は居るだろうかと姉のことを思い出しては動揺する心情をどうにか整える。この作業にはいつだって苦労していた。
それでも表情が哀か無の範囲であるのなら、嵐が起きることはないのだ。
玄関に見慣れない靴が一足あった。姉の靴はない。自分の靴をそっと隣に並べて、その大きさに男性のものだと知る。
逃げなければと思った。姉が何らかの理由で出掛けているのなら、戻って来た時にあの人と一緒に居るのはまずい。邪推されて、誘惑したと責められてしまうのがオチだ。
「おかえり」
後ずさりと同時に立てた音が聞こえたのか、その姿はリビングから現れた。
黒よりは灰色に似た短髪に色白の肌、虚ろとした丸い目の男性。
鈴木くんも似たようなものだけど、それとは違う。
もっと危険なそれだ。
「来ていた、んですか?」
落ち着くために持っていた鞄を強く握った。
「舞由さん、今度のコンサートの件で宗谷先生に呼び出されたらしくってさ。暇ができちゃったんだよ」
偽物の笑顔は鈴木くんも得意だ。ただ、姉の前で完璧な笑顔をつくるこの人は私の前では一切の表情を欠く。どちらが本物か見分けがつかないのが恐ろしくもあった。
違う。多分。
姉がどこまで話したのかではなく、全部知っているのだ。この人は。
「君は天使を信じる?」
初めて会った時にそう聞かれた。
真っ先に浮かんだのは鈴木くんだ。
当時の彼はまだ嘘つき呼ばわりで、いつも不機嫌そうで敬語ですらなかったが、その頃から歌だけは上手だった。それを聞いた時、これが例えでもなんでもなく本物のそれではないかと少女漫画みたいなのをよぎらせたものだ。
続く肯定に対して何かを言いかけた彼は、着替えから戻って来た姉を前にそれ以上の話はしなかった。
その後、姉から直接この人が彼氏であることを教えられ、なんという物好きがいたものだと思ったもののこの人が大丈夫なのか心配になったものである。
けど、そんな心配いらなかった。
彼もどこか変だ。
「そう、ですか。でしたら、しばらくリビングでお待ちいただければよろしいかと思います。私は用事があるのでお構いできませんが」
素っ気なく口にして私は靴を脱いだ。
この人の隣を通り過ぎなければ二階の部屋に行けない。
できるだけ、短い対応で距離を置くのがいいと判断する。
「ユマちゃんは嘘が下手だよね」
好きだとは思っていない名前を口にされて、眉を寄せた。
マユユマ。姉妹でループし続けるこの名前が私にはウロボロスの蛇を思わせるようでぞっとしたのである。
「察しては、いただけませんか?」
無駄な足掻きはしない。こうしている間に進む時計からもこうやって見られることも不快だった。
「ユマちゃんこそ、僕がこうやって声をかけた理由も知っているはずだよね」
理由。
自然と背筋が伸びた。
思い出したのは私にとっては、大事な二人だ。
「本の件でしたらお断りいたします」
一度も口にしたことはなかったのに、悪魔を召喚した後にも同じことを言われたのだ。
その時、本を持っていたのは鈴木くんだった。単純にちゃんと読んだことのない本だったから興味が湧いたというそれだけの理由だったが、タイミングがよかったと安心したのだ。
「だったら、中の紙だけでも構わないからさ」
「それこそが渡せないものだと私は言ったはずです」
こんな場面を姉に見られたらどうなるかわからない。
幸いにも告げ口はされてなかったが、これからもそうであるかどうか確証はない。
そうだとしても渡せないけれど。
「ユマちゃんはお姉さんに幸せになって欲しくないの?」
「悪魔を召喚して恋人を幸せにしようというのが、健全だとは思えません」
破壊をするのが悪魔だ。幸せを願うのはおかしい。
あの魔法陣で何も呼び出せないあるいは他の悪魔が出てくるならいいが、万が一にもあの子が召喚されたらどうなるのかが怖かった。
「どんなことをしてでも幸せを願うのは悪いことかな?」
「そのために何を犠牲にするつもりですか?」
「ユマちゃんは何を犠牲にしたんだい?」
「ご承知の通りです。それとも私に言わせたいんですか?」
足が竦む。叫び散らせたらどうにか耐えられるだろうかとも思うが、その姿がどれだけ醜悪なのかは姉を見てよく知っていた。
そもそもあの件に対して、この人は一切関与していない。ただの八つ当たりだ。
「いじめるつもりで言ったんじゃないよ。それと何か大差あるのかって聞きたかったんだ」
「では、実行した私から忠告の形で口にさせていただきます。そんなことをしても何も救えません」
言いながら、あの悪魔なら違うかもしれないと思った。
思っていてもこんな人たちに関わらせたくなかった。
そう考えて心中だけで自嘲。
あの事を知られたくないだけのくせに。
とっくに誰かの口から鈴木くんまで届いていたとしても、知られたと私が認識できなければ知らないのと変わらない。
嫌われるだろうか。軽蔑されるだろうか。
人間嫌いの鈴木くんのことだから、人間って残酷な生き物ですねとか笑うかもしれない。
そんな風に見られたくはなかった。
全部自己保身だ。嘘つきだ。
「やるからには、僕は失敗しないよ」
「私もそう思っていたんですよ」
考えたくない。考えたくなんてないのに思い出してしまう。
最悪の想定と交互に明滅する思考に吐きそうだ。
「……願ったのは本当にお姉さんの幸せだった?」
喉の奥が鳴った。同時に揺れたポケットに身体が跳ねる。
一瞬の空白に流れてきたその曲を理解して、肩の力が抜けた。
思い入れのあるメロディーを彼に割り当てたのはよく鳴るからという理由だったが、その選択はきっと正しい。
顔をしかめた姉の彼氏を前に私は深呼吸で顔を上げた。
「電話に、出てもいいですか?」
「用事があるというのは本当だったんだね。引き止めて悪かったよ」
勘違いしたのか謝罪を述べられてしまった。
けれども引き下がってくれるならありがたい。
「いえ、お気になさらず」
鳴り続ける携帯電話を心臓にあてるとなぜか安心した。
「――山田さん」
呼ぶのは苦手なそれを口にする。リビングに戻ろうとして振り向いた闇を前に、私はできるだけ声色を柔らかくする努力を試みた。
「幸せに」
あなたが幸せにならなくて姉の幸せなんて馬鹿らしいわ、とは口にせずに私は玄関から外に出た。
それが自分自身に一番言いたいものでもあるから、よけいに言えなかった。
そう言った姉の血走った目やその後に続く言葉はたった一言の補足でしかなかったが、内部を刃物で切りつけるような気がした。
そこから溢れだしたものがどこに行ったのかわからない。ただ、その時の私の服は赤茶色に汚れていて、きっとあの赤と一緒に地面に溶けていたらいいと思った。
そうして二度と現れなければいいのにと願って、願いは中途半端に叶ったからこその今だ。
感情は消せない。でも表情は消せる。
それで隠せるのなら、今は、それで。
深呼吸をしてから鍵を回す。家に入るのは緊張する。今日は居るだろうか、今は居るだろうかと姉のことを思い出しては動揺する心情をどうにか整える。この作業にはいつだって苦労していた。
それでも表情が哀か無の範囲であるのなら、嵐が起きることはないのだ。
玄関に見慣れない靴が一足あった。姉の靴はない。自分の靴をそっと隣に並べて、その大きさに男性のものだと知る。
逃げなければと思った。姉が何らかの理由で出掛けているのなら、戻って来た時にあの人と一緒に居るのはまずい。邪推されて、誘惑したと責められてしまうのがオチだ。
「おかえり」
後ずさりと同時に立てた音が聞こえたのか、その姿はリビングから現れた。
黒よりは灰色に似た短髪に色白の肌、虚ろとした丸い目の男性。
鈴木くんも似たようなものだけど、それとは違う。
もっと危険なそれだ。
「来ていた、んですか?」
落ち着くために持っていた鞄を強く握った。
「舞由さん、今度のコンサートの件で宗谷先生に呼び出されたらしくってさ。暇ができちゃったんだよ」
偽物の笑顔は鈴木くんも得意だ。ただ、姉の前で完璧な笑顔をつくるこの人は私の前では一切の表情を欠く。どちらが本物か見分けがつかないのが恐ろしくもあった。
違う。多分。
姉がどこまで話したのかではなく、全部知っているのだ。この人は。
「君は天使を信じる?」
初めて会った時にそう聞かれた。
真っ先に浮かんだのは鈴木くんだ。
当時の彼はまだ嘘つき呼ばわりで、いつも不機嫌そうで敬語ですらなかったが、その頃から歌だけは上手だった。それを聞いた時、これが例えでもなんでもなく本物のそれではないかと少女漫画みたいなのをよぎらせたものだ。
続く肯定に対して何かを言いかけた彼は、着替えから戻って来た姉を前にそれ以上の話はしなかった。
その後、姉から直接この人が彼氏であることを教えられ、なんという物好きがいたものだと思ったもののこの人が大丈夫なのか心配になったものである。
けど、そんな心配いらなかった。
彼もどこか変だ。
「そう、ですか。でしたら、しばらくリビングでお待ちいただければよろしいかと思います。私は用事があるのでお構いできませんが」
素っ気なく口にして私は靴を脱いだ。
この人の隣を通り過ぎなければ二階の部屋に行けない。
できるだけ、短い対応で距離を置くのがいいと判断する。
「ユマちゃんは嘘が下手だよね」
好きだとは思っていない名前を口にされて、眉を寄せた。
マユユマ。姉妹でループし続けるこの名前が私にはウロボロスの蛇を思わせるようでぞっとしたのである。
「察しては、いただけませんか?」
無駄な足掻きはしない。こうしている間に進む時計からもこうやって見られることも不快だった。
「ユマちゃんこそ、僕がこうやって声をかけた理由も知っているはずだよね」
理由。
自然と背筋が伸びた。
思い出したのは私にとっては、大事な二人だ。
「本の件でしたらお断りいたします」
一度も口にしたことはなかったのに、悪魔を召喚した後にも同じことを言われたのだ。
その時、本を持っていたのは鈴木くんだった。単純にちゃんと読んだことのない本だったから興味が湧いたというそれだけの理由だったが、タイミングがよかったと安心したのだ。
「だったら、中の紙だけでも構わないからさ」
「それこそが渡せないものだと私は言ったはずです」
こんな場面を姉に見られたらどうなるかわからない。
幸いにも告げ口はされてなかったが、これからもそうであるかどうか確証はない。
そうだとしても渡せないけれど。
「ユマちゃんはお姉さんに幸せになって欲しくないの?」
「悪魔を召喚して恋人を幸せにしようというのが、健全だとは思えません」
破壊をするのが悪魔だ。幸せを願うのはおかしい。
あの魔法陣で何も呼び出せないあるいは他の悪魔が出てくるならいいが、万が一にもあの子が召喚されたらどうなるのかが怖かった。
「どんなことをしてでも幸せを願うのは悪いことかな?」
「そのために何を犠牲にするつもりですか?」
「ユマちゃんは何を犠牲にしたんだい?」
「ご承知の通りです。それとも私に言わせたいんですか?」
足が竦む。叫び散らせたらどうにか耐えられるだろうかとも思うが、その姿がどれだけ醜悪なのかは姉を見てよく知っていた。
そもそもあの件に対して、この人は一切関与していない。ただの八つ当たりだ。
「いじめるつもりで言ったんじゃないよ。それと何か大差あるのかって聞きたかったんだ」
「では、実行した私から忠告の形で口にさせていただきます。そんなことをしても何も救えません」
言いながら、あの悪魔なら違うかもしれないと思った。
思っていてもこんな人たちに関わらせたくなかった。
そう考えて心中だけで自嘲。
あの事を知られたくないだけのくせに。
とっくに誰かの口から鈴木くんまで届いていたとしても、知られたと私が認識できなければ知らないのと変わらない。
嫌われるだろうか。軽蔑されるだろうか。
人間嫌いの鈴木くんのことだから、人間って残酷な生き物ですねとか笑うかもしれない。
そんな風に見られたくはなかった。
全部自己保身だ。嘘つきだ。
「やるからには、僕は失敗しないよ」
「私もそう思っていたんですよ」
考えたくない。考えたくなんてないのに思い出してしまう。
最悪の想定と交互に明滅する思考に吐きそうだ。
「……願ったのは本当にお姉さんの幸せだった?」
喉の奥が鳴った。同時に揺れたポケットに身体が跳ねる。
一瞬の空白に流れてきたその曲を理解して、肩の力が抜けた。
思い入れのあるメロディーを彼に割り当てたのはよく鳴るからという理由だったが、その選択はきっと正しい。
顔をしかめた姉の彼氏を前に私は深呼吸で顔を上げた。
「電話に、出てもいいですか?」
「用事があるというのは本当だったんだね。引き止めて悪かったよ」
勘違いしたのか謝罪を述べられてしまった。
けれども引き下がってくれるならありがたい。
「いえ、お気になさらず」
鳴り続ける携帯電話を心臓にあてるとなぜか安心した。
「――山田さん」
呼ぶのは苦手なそれを口にする。リビングに戻ろうとして振り向いた闇を前に、私はできるだけ声色を柔らかくする努力を試みた。
「幸せに」
あなたが幸せにならなくて姉の幸せなんて馬鹿らしいわ、とは口にせずに私は玄関から外に出た。
それが自分自身に一番言いたいものでもあるから、よけいに言えなかった。
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