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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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うとうとして上下しているとスローモーションのロックライブみたいですね。
眠いです。寝ます。
みなさまもよい夜と夢が訪れますよう。


時系列を戻して、出会って次の年の鵜山と鈴木。


 小学5年生の時、鈴木くんが1ヵ月ほど学校に来なかったことがあった。
 担任の教師いわく一緒に住んでいた祖母が亡くなったそうだ。

 一度、授業参観で見たことがあるが、おっとりとした人だった。あまり口を開くことはなくても静かに見守るような目をしていて、そっと笑う口元やその視線の先が自分ではないと知りながらも安心したものだ。
 鈴木くんの祖父のことは知らないが、この人が天使であるとするならわかるような気がした。

 いなくなるというのはどういう感覚なのだろう。

 両親は健在だ。祖父母は生まれる前に戦争や病気で亡くなっていた。深い付き合いの親戚もいなかった私にその感覚を理解するのは難しい。
 けど。
 人と他の動物を同列して感情の共感を目指すことが許されるのなら、それと似た感情を知っていた。

 31日目に学校にきた鈴木くんは腫れた瞼をしていたものの、雰囲気はいつも通りに近かった。ただ、一度だって私に話しかけることはなく、かといって避けることもしなかった。
 私自身、思い切って声をかけたものの何をどう話していいのかわからないままで、連絡事項とイエスかノーで答えられる質問しかできずにいた。

 教師が彼に何か心配を伝えると掠れ切った声で大丈夫ですと答えたその声が、1ヵ月ぶりに聞いた彼の声だったのだから、思わず嘘つきだと言いかけてしまったものである。

 言わずにいられたのは、鈴木くんがその言葉に強く傷つくことを知っていたからだ。
 クラスメイトがやっぱり天使なんかいなかったんだ、だってばあちゃん死んじゃったんだろというのを聞きながら、よけいなことをしてしまいたくなる衝動を堪えるので精一杯だった。


 そんな日々が続いて、四十九日を終えた次の学校の日。
 難しい顔で入って登校してきた彼が、唐突に近くに座っていた男子に向かって『じいちゃんはやっぱり天使だった』と言った時、クラスの空気が確かに今までと違うものになった。
 変わっていたのは声だけのはずだった。元のソプラノを少しだけ低くしただけのそれを綺麗な音と思っただけの私に対して、周りはそれ以上の何かを受け取ったらしい。

「そうだよな! 天使はいるよな!」

 話しかけられた男子が感銘を受けたように叫んで、そうだそうだという声とともに肯定を示す声が各所から上がる光景は嘘くさいとも思ったが、それがずっと続いたのだ。


 最初は戸惑っていた鈴木くんも次第に集まって来ることにも慣れて、溶け込んで、気づけば人気者になっていた彼を見ながら、それはとてもいいことだなと思ったものだ。かつて、滅亡を願った彼はいない。
 例えば、その時に感じた寂しさのようなそれは私にふさわしいもので、今までが逆に特殊すぎたのだのだと納得できた。ただ、ほんの少しの違和感を抱えて首をかしげてたぐらいだった。


 話す機会が減ったのは必然的とも言える。周りが私を避けていたのは当然として、彼や彼女らは鈴木くんにもそれを望んだのだ。
 当時の彼はそれに対して不快そうな顔はしたものの何かを言うことはなかった。

 今思えば、そのままでいればよかったかもしれない。

 私というのはやはり不吉な存在なのだなと、あの日に気づいた。
「呼び出されるとは思わなかったわ」
 来週には取り壊される公園は鈴木くんの家から五分の場所にあった。
 当然のように先についていた彼は、ブランコに座って隣を促す。

「来てくれるかどうかは、曖昧だったんだけどね」

 靴箱に入っていた手紙は、いつかノートを見た時の字よりもどこか歪んでいて、それを書く際に彼が平常心でなかったように思ったからこそ、急いでしまったのだと言えばそうだ。
 沈む夕日が景色を染め上げていく。
「無理して声をかける必要なんてなかったのよ。何か気を遣ったんだったら、私のことは気にしなくていいわ」

「僕、わかったんだよ。天使も魔法もこの世の中に存在しない」

 私の言葉の後半にかぶせるように、鈴木くんはそう言った。

「そもそも馬鹿みたいじゃないか。いつかみんなが言っていた通りだよ。天使だったらばあちゃんのこと助けたはずじゃないか。自分の好きな人なんだからさ。魔法があるなら火葬場に運ばれる前に生き返ったはずなんだよ。燃やされたらもう無理じゃないか。骨になったって目覚める魔法もあるかもしれないけど、それなら最初から助けてると思うんだ」

 その表情に笑顔を浮かべて語るのは、どれも彼らしくないものである。
「なに、言ってるの?」
 意味がわからない。その言葉が普通だとして、正しいとしても鈴木くんがそれを言うなんて信じられなかった。
 殴りかかってしまおうかと一瞬だけ思った。けれどもそれを証明できるものがなければ強制すべきではない。堪える。

「そのままだよ。天使も魔法もない……それともまだ信じてるの?」

 馬鹿にするように笑っていた鈴木くんが、最後の質問だけを真顔で口にした。

「私は信じてるわ」

 思った事をそのまま口に出して、大袈裟なほど目を見開いた鈴木くんが唐突に声をあげて笑い出したのを眺める。
 それではいつか彼が嫌だと言ったクラスメイトと同じじゃないかと拳を握りしめた。
 彼の足元に何かが落ちる。

「鈴木、くん?」

 何度か彼が泣きそうになっているのも涙を流したのも見たことがある。
 けれど、これほどまでじゃなかった。鈴木くんの頬をいくつもの筋がなぞるのを見たことはない。
「わかってた。本当はわかってたんだ」
 目元を裏切るように唇に弧を描いたまま、鈴木くんの握り締めた鎖が擦れて、音が鳴る。

「でないとおかしいんだよ。今まで信じなかったものを急に信じるなんて無理に決まってる。だったらこれが魔法じゃないか。はは。僕が何を言っても信じるんだって、嘘でも信じるんだって、なんだよそれ、神様かよ。神様気取りだったのか僕は」

 嫌な予感がした。

 似たような光景を家でよく見ていた。ただ、鈴木くんの場合はその言葉を自分自身に向けているだけの違いだ。

「僕が死とは素晴らしいっていったら、みんな信じるのかよ! そしたら望み通り世界なんて簡単に滅ぼせるじゃないか! なんだよそれ、なんでそんなものをくれるんだよ! こんなものを望んだわけじゃないんだ! こんなもの!」

「鈴木くん!」

 何を言っているのか脈絡が掴めないが、それがよくない方向に向かっているのはわかる。正面に立って俯いた彼の両手が動き出す前に、手首を掴むことで封じた。
 振り払おうとしようとした鈴木くんが、それをやめて顔を上げる。

「僕は、こんなものもらうより、じぃちゃんがいてくれる方がよかった」

 虚ろになったその目が怖くなって、掴んだ手の心臓の音に集中する。
 鈴木くんが彼の祖母と同じく原因不明で死んでしまうんじゃないかという恐怖が掠めた。

「いなくなったの?」

 それぐらい妻がいなくなったのがつらかったというのなら、珍しいことではないのだろう。

「違う。消えたんだ」

 消えたんだよと繰り返す視線が横に流れる。
 握った手首の力を強めると目線が私に戻った。
 逸らさないで。
「天界に戻ったのとは違うの?」
 天使だと言うのなら、それが正しい表現と思えた。
 地上に居る理由が妻だとするなら、彼女が亡くなった以上、向こうでの役目もあるから戻るというのが正しい。

 消えたというのは、まるで。

「人間と天使なんて元がルール違反なんだよ。それでも神の慈悲か何かで消える猶予を貰っていただけなんだ。そういう約束だったんだよ。じぃちゃんの子どもに天使がいたなら殺されていたかもしれないけど、そうはならなかったからっていうのもあるだろうけど」
「そう言ってたの?」
 鈴木くんがそう思ったのではなくて?
 問いかけに彼は頷いた。
「止めたんだ。でも無理だった。無理なかわりに一つだけ願いを叶えてもらったんだ」

 何を願ったのか。学校で鈴木くんが最初に放った言葉がすべてだろう。

「嘘つきだって言われたくないって、わかったって、額にキスされた。それで終わり。後はもう僕だけになって、それまで声が出にくいなと思っていたら、これだよ」
 鈴木くんの涙はとっくに止まっていた。
 その赤い目にぐらつく身体が崩れないように、私は足に力を入れる。

「仮にあなたがその声で人類滅亡を願っても私が止めるわ」

「ここでそれを言うわけ?」
 脱力したのか彼の身体から力が抜けるのがわかった。

「ええ。私にその魔法が効かないのなら、私なら鈴木くんを止められるってことでしょう?」
 私にそれが効いたのなら、彼はきっとまだその魔法に浸っていられたのか
もしれない。
 ただ、それを後悔するのは今じゃないと思った。それよりも目の前の彼だ。
「最初の時と変わらないじゃないですか」
 小さく吹き出した鈴木くんは、どこか壁を作るように口調を変えた。
 私は首を振る。
「もう一つ、意味ができたわ」
「どんな?」

「その時は止めるから、声を潰さないで」

 これがただの押しつけでしかないことは知っていた。
 それでも今、言わなければならない。

「あなたの歌がずっと好きだったのよ」

 合唱の授業でどんなに小さくても聞きわけるぐらいに、その音が好きだと思ったのだ。
「……この声おかげで、歌うのが楽しくなくなりましたけどね」
「聞かせたくなったら呼んでくれればいいわ」
「嫌です」
 掴んだ両手に視線を向けられて、そっと手を離す。

「人間なんてうんざりですよ」

「そう」
 指の痕跡が残った鈴木くんの両手首を眺めて、一歩後ろに下がった。
「救いを求めたくせに手を振り払う。あなたのその捻くれた性格が私は大嫌いだわ」
「人のこと言えるんですか?」
 口角を僅かに持ち上げた鈴木くんは言って、ブランコから立ち上がる。

「ええ。だから言うのよ。完全な嘘がつけるほど人は器用にできてないわ。その魔法がどうであれ、あなたに好意を持つ相手がいるならその一欠片ぐらい認めてやったらいいじゃないの」

「認めても僕には必要ありません。みんなに好かれているなんて幻想を抱いて、それに一瞬でも自惚れた自分なんて死ねばいいと思うぐらいには憎たらしいですよ」
 軽く手首を鳴らしながら、鈴木くんは目を細めた。

「好意ゆえに盲信されるというのなら、その数が多い分だけ僕はそれほどの理想を押し付けられる。常に清く美しくだって笑わせる。僕は天使でもなければ、聖人君子でもない」

「だから信じないっていうの?」
「だから僕なんて信じないでくれってことですよ」
「心配に及ばずとも信じてなんていないわ。傷ついたくせに、何を一人で生きていけるみたいな顔をしてるの?」
「それはお前も同じじゃないんですか?」

「私はそれなりの理由があるわ。あなたの場合は駄々を捏ねているだけじゃない」怒らせたのは百も承知だ。踵を返す。「帰るわ」
 何を言っても無駄だ。最初から譲る気がお互いにない。
「勝手に帰ればいいじゃないですか」

「また明日」
「……また明日」
 その切り返しに安堵の息を漏らして、私は家に向かう。
 何もできないなんてつらいけれど、何かをしたいなんて単なる押しつけだわ。
 それでも一緒に居る理由ができたのなら、完全に振り払われるまではつき合わせてもらおうと思った。

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