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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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小説を整理していたらアップできていなかったものを見つけてしまって右往左往。
申し訳ありません!
どれくらいの方が読んでくれているのかわからないのですが、お付き合いいただきありがとうございます。

どうりで順番がおかしいと。
鵜山と鈴木の両者視点がなるべく交互になるように書いているので、あれっと思ったら。
下の続きは音楽室にて、悪魔と約束をするの続きになります。

熱い拍手をありがとうございますっ!

その後の音楽室にて鈴木と悪魔。


 


 昼間に貰った手作り弁当は、手作りというそれだけで十分価値があるもののはずだった。
 ただ、その手作りの隠し味が愛情だとするのなら、押しつけられるそれに対して良の価値を見いだせというのは釈然としない。

 口の中に残った甘い卵の味に眉を潜めながら、最終授業を右から左に聞き流す。
 選択授業の関係で同じ教室にいない鵜山について、ぼんやりと相変わらず彼女はどこでお昼を過ごしているのだろうかとどうでもいい思考を巡らせた。
 いつもなら中庭のペンキの剥がれたベンチに座っているはずなのだが、今日はそこにはいないようだった。
 先に上級生のカップルが座っていたからだろうか。今日、手作り弁当を押しつけてきたクラスメイトの奥中いわく元は男側に彼女がいたのを寝取る形で奪い取った結果だそうだ。

「もっともあの手の話に虚構がないというのがおかしい話ですよね」

 信用できない話ばかりだ。
 油断するといつだって誰かを蹴落とそうする心理は、知ってはいるものの理解はしたくはなかった。
 自分が蹴落とされる側になったら、散々喚くだろうに理不尽な話だ。
 足蹴にした人間の数などきっと覚えてはいない。

「人のこと言えませんね」

 そういうことを全くしていないと言えば嘘になるだろう。
 故意ではなくても相手がそうだと思えば、それは事実に違いない。
 考えたところで気分が悪くなるだけだ。
 ため息一つで音を立てずに立ち上がる。
 教師はまだ気づいてない。何人かと視線があったが指に手を当てる仕草で、一部の女生徒はどうにかなった。
 不機嫌な男性陣は、あとでどうとでもなる。口を開けば、ほとんどの人間は逆らわない。

 本当なら教師すら容易いことは知っていた。
 いっそ、学校に行かずに卒業ということはできないだろうか。
 それでもこの声が全員に作用するかと思ったら、そうではないのだ。稀に聞かない相手もいる。鵜山を筆頭にあの神出鬼没なアンと叔母と悪魔と、それから数人ほど。

 目を伏せて教室の扉を閉じる。耳を澄まさないと誰もいない廊下で音を聞き取るのは難しい。
 誰もいない方がマシだと思う心と、それは嫌だと思う感情が混同するから厄介だった。

 滅ぼしてしまいたいのは本当だ。誰もいなくなれば、自分自身の感情を相手にせずにすむし、こんな生き辛い世界で誰かが苦しむことも無くなる。
 幸福をと悪魔は言ったが、幸福なんてものは誰かの犠牲の上にしか成り立たない。

 それなら、やはり自分も踏みにじる側の人間でしかなく、そしてそれはやっぱり天使としては失格だ。
 こうやって授業を放棄する時点で、すでに失格でしかないと言われればそれまでと思いつつ、足を進める。
 今日の曜日と特別教室の時間割を脳内で思い描いて、逃げ場所を弾き出した。
 限られた音しかないところは一つしかない。


 前に調べ学習で図書館に訪れた際、新聞を探す機会があった。
 何気なく自分と同じ誕生日の日付を見つけて手に取れば、スポーツ文化欄に知っている顔に似たものを見つけたのだ。
 まさかと思ったが、同姓同名で同じ顔となれば本人しかいないだろう。この場合、ドッペルゲンガーの可能性は保留にする。

「ピアノ、ね」

 音楽室の三番目の扉はいつも鍵が開いている。
 というのを知っている人はどれだけいるのだろうと思った。
 忍び込むというほどたいしたことはしていないが、いつも鍵を開けているのは紛れもなく自分だった。
 防音設備のなされたこの部屋なら、多少の歌は許される。
 誰もいないピアノにもたれかかって、音楽の授業さながらに一番奥の壁を見た。
 コの字に取り囲むような偉人の肖像画は怖い話の定番だ。けれども怖くない。

 終わったものは終わりでしかない。

 小さく深呼吸。
 変ト調で構成された短い音楽は、月の光やメヌエットで有名なドビュッシーがルコント・ド・リールの詩に曲をつけたものだと言われている。
 その詩は知らないが曲は知っていた。歌詞はなくとも声は十分楽器になり得る。
 ラを音符がわりに乗せて、喉から放つ。生きた観客がいない室内に響き渡る音にはなぜか心地よさがあった。
 きっと誰も左右しないからだと思う。
 一人で使う楽器は自分だけのものでいい。

 伝えたいことなんて何一つない。ただ。
 ただ?

 心中だけで首を傾げる。

「亜麻色の髪の乙女」

 曲が終わったと同時に、声は背後に響いた。
 振り返れば、ピアノの椅子に座った黒い悪魔。
「どうしたんですか? 珍しいですね、学校に来るなんて」
 つい笑顔になる。向こう側は不機嫌になる。
 そういうところが可愛いと思った。
「好きで来たわけじゃねぇよ」
「誰かに会いに来たんですか?」
 今日は少しばかり落ち込んでいるように見える。

「呼ばれた気がしただけだ」

 俯いて視線を逸らされたのを見るに、恐らくは後ろめたいことだろう
 何か重大なことを隠されているのは承知だ。ただ、それを暴くつもりもなければ、責めるつもりもなかった。

 そんなことは悪魔の自由だ。そしてそれでいい。

 強引に聞き出すことは可能だろうがどうせなら話してもらえる時がいい。
 まあ、ずっと黙られたまんまでもいいんですけど。
 俯いた頬を両手で摘まめば、捕捉されたと気づいた悪魔が顔を上げた。

 ああ、泣きそうな顔をしてるし。

「呼ばれたいのならいつでも呼んであげますよ」
 柔らかい肌は赤子のそれとよく似ている。摘まんだ時の弾力が指先に心地いい。
 引っ張って伸ばす。抵抗しない悪魔は、満足させないと屈服させられることを心得ているようだ。

 いや、そうしたのは僕だけど。

 嫌だと口だけが動いたのを確認して、笑い声が漏れる。
「そうだろうと思いました」

 でも、離れられない。

 例えば、別の願いを口にした時、この悪魔はそれを叶えてくれるのかもしれない。そしたらいなくなるのだろう。
 ぱっと手を離す。

「いってぇ」

 しかめ面で両頬を撫でる仕草を眺めながら、今、この存在がいなくなったとして元の生活に戻れるだろうかと考えてしまった。
 さっきまで死ぬことを考えた頭で、生きやすくすることを考えるというのは矛盾にも程がある。

「笑えたら幸せですよね」

「なんだよ。いきなり」
「いえ、なんとなく」
 新聞記事を思い出した。
 写真の中に映っていたのは一人の少女だ。
 最初に出会った時よりもずっと幼い彼女は金賞を手に、はにかむように笑っていたのだ。

 今では考えもつかないな。

「それが作られたものでなけりゃ幸せだと思うぞ」
 口調に関わらず真面目な質問だと見破られたのか、悪魔はちゃんと答えた。
「作りものですか?」
「作りもの笑顔は誰かさんが得意だろ」
 見上げられる猫目に捕らわれて、吹き出してしまう。

「それって、僕のことですか?」

「他に誰がいんだよ」
 世の中を上手に渡れる人間は特殊でない限りそうだと言いかけてやめた。
「今は本当ですよ」
「いじめるのは楽しいか?」
 そう受け取られるのも無理はないかもしれないし、間違ってもいないのかもしれなかった。

「楽しいですよ」

 正直とも嘘とも言える返答に悪魔は唇を結ぶ。
「そういう考えは嫌いだ」
「対象が自分なら僕でも腹が立ちますけどね」
「それならやめろよ」
「それこそ嫌です」
 怒られているのはわかっている。
 睨まれたことにも気づいた。どちらかというと同情に近いそれすら心地がいいというのは、悪魔にしてみれば迷惑以外のなにものでもないのかもしれない。

 それでも付き合ってもらうよ。

 召喚したのは自分たちだ。願いを要求したのも自らの理想像を押しつけたのも悪魔だ。

 それなら、こちらも自由は許される。

 ただの自己正当化。それでもいざとなったら相手を言い負かすぐらいには本気だった。
「でも、本当は」
 中途半端に悪魔は言葉を止めた。
 そんな顔をされるとついつい手を伸ばしてしまう。笑わせるのは容易くはない。それなら、別の気にさせればいいのだ。

 耳の横に手を触れて髪をくしゃくしゃに撫で回す。
 不意打ちにぐらりとバランスを崩しかけたのをいいことに、そのまま頭をぐるぐる振り回せば案の定の抵抗。

「あーもう! やめろよ!」

 上下する両足は子どもらしく小さい。
 どこにでもいそうな、少しやんちゃな子ども。飛び出した堅い角が指先に触れる。
 それでもやっぱり人間らしい悪魔は顔を歪めたまま、魔法なんて一切使わずに僕に頭突きをくらわせた。

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