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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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今日からこちらも冬らしくなりそうで、こたつとねこが欲しくなる今日この頃。
身近に風邪の方が増えてきたようなので、皆様もお気をつけくださいませー。

拍手ありがとうございますですっ!
更新遅めながら、お付き合いいただきありがとうございますっ!


魔女と悪魔の(嘘かもしれない)話。



 軋む階段の音に顔をあげると、黒い服に身を包んだ悪魔がリビングに姿を現した。
「おやおや、お目覚めかい?」
 思ったよりも早かったねと言えば、瞼をこすりながら欠伸を漏らしていた悪魔と目が合う。
 猫の目のような細い黒が徐々に円を描く。持ち上がる唇が歪むように持ち上がるさまは、さながら下弦の月。

「これはこれは、魔女だけですか?」

 わざらしく芝居がかった口調で悪魔は言うと、迷わずあの子が座っていた席に座る。
 いや、それはお前のじゃあないからね。
 ただ、真正面に位置するその場所からだとお互いの表情がよく見えるという意味では、正しい選択だ。

「あの子なら出掛けて行ったよ。ウヤマって子か、一人か、どちらだろうねえ」
 あの子は人付き合いに対して疑いばかりだ。どんなに人が集まろうとも、常に独りでいるような勘違いをしている。
 身体を捩じって、後ろの棚からチェス台を取り出す。テーブルに置けば、意図を理解した悪魔が椅子を寄せた。

「ずっと聞きたかったんだがね」

 盤上に駒を並べる。
 黒と白の陣を構築すると、これはまさに悪魔と天使の対決のようなイメージがよぎるが、そんなことはない。やつらがこんなルールでゲームをするわけがないのだ。
 まずはポーンを進める。

「俺は魔女の話が嫌いだから、聞くわけにはいかない」

 笑みを消した表情で吐き捨てて、悪魔もポーンで一手。
 あの子の前では可愛いくせに。
「つれないね~」

「釣りあげたかったら、もっと上手い餌を用意するべきだ」

 カチカチとテンポよく進む行進曲のような音。ジジイとはできない演奏だ。

 あの父親はこの手のゲームを嫌がる人だった。将棋もチェスもオセロも相手を捕らえ、覆すゲームだ。それは人を踏みにじる行為だと潔癖症を発揮したもので、たかだか遊びに何を言っているのだと面白くなかった。
 おまけに、あの子の父親も含めて、どいつもこいつもジジイの言うことを絶対だと言う。

 恐怖の対象ではなく、ジジイが正しいのだと信じているのだ。教科書通りで、マニュアル通り、なるほど確かに優しかっただろう。
 こんなアタシを相手に、自分の子どもだと言い張れるぐらいだから。

「お前はメフィスト・フェレスではないね」

 ナイトを奪えば、悪魔は鼻で笑った。
「そんなことはとっくにご存知でしょうに」
「一手でトドメだなんて、面白くないだろうて」

「弄ぶよりも一撃必殺をおすすめしますよ」

 いつの間にか囲まれていたクイーンが、悪魔の手の内に転がる。
「どうやら、あんたはおれの正体を知っているようだ」
 最初から勝負など関係ない。結果がどうなろうと知った事ではない。
 肝心なのはこの盤上ではないのだ。本物のゲームはこれぐらいのお遊びの片手間でやるぐらいが丁度いい。

 それにしても可愛い顔なのに、勿体ないねぇ。

 もう少し年寄りに優しくできる技術があれば、落ちこぼれだと言われずに済んだだろうに。

「残念なことに、正体までは辿りついてはいなくてね」
 ルークを走らせ、ポーンを倒した。
「本物の悪魔だという証明もできないけどねえ。お前は確かに悪魔だと思っているよ」

「悪魔の証明はできないからこそ、悪魔の証明なんだぜ。その根拠を伺おうか?」

「お前、本当は優しくないんだろう?」
 飛びきりの笑顔で問いかけたつもりだが、悪魔は何の誘惑も受けなかったようだ。
 動かそうとしたクイーンを手にしたまま、その口を開いた。白い歯が覗く。

「おれは『世界』を救いたい。救いたいから壊したいんだ」

 クイーンを指先で撫でながら楽しげに笑う悪魔は、その名称がよく似合う。
「それは言いようによっては、確かに優しいのだろうけどね」
 例えば、悪魔が女王と王に忠実な騎士だとする。
「お前はそのために犠牲になるすべてに、躊躇はないんだろう?

「おれは悲しくなければいい」

「『おれの【契約者】が悲しくなければいい』が正しいんじゃないのかい?」
 この悪魔を召喚したのは、ウヤマという少女とあの子だ。
 しかし、あの子から聞いた話による契約を交わしてなどいないそうだ。そこには羊皮紙も血印も存在しない。
 それならば。
「お前の契約者は誰だい?」

「おれも知らねぇよ」

 眉を下げてつぶやく悪魔は、もう悪魔ではなかった。
 この落差が彼の落ちこぼれの所以だろう。悪魔という存在は欲望に忠実ではあるが、演技すべき場所は心得ているものだ。

「でも、おれはその人が悲しいかどうかはわかるんだ。それでいい」

 目的は変わらない。
 悪魔がぽつりともらして、持っていたクイーンを盤上に置いた。
「チェックメイトだ。魔女」
 話は終わりとばかりに椅子から飛び降りる。
 残された悪魔側の陣には、一度も動かなかったクイーンとキングが一つずつ。

「世界はそんなちっぽけなものではないのだけどねぇ」

 悪魔のいうそれは、この盤上程度の広さなのだろう。
 その外で行われるすべてなど、この世界が平穏であれは関係ない。

「あの子らしいねぇ」

 全部救おうなんて無理だと常々思っているあの子にとって、限られた世界しか救わず、他を壊せる悪魔に好意を持つのは正しい。
 もっとも、今までの会話も含めて、悪魔の言葉がどこまで本当かどうかという問題もある。
 それをあの子が気づいているだろうかは別として。

「あの子が楽しそうならそれでいいさ」

 その正しさを決められるのは、あの子だけであってアタシではないのだから。

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