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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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山田くん関係で善悪についてつらつらと考えつつ。
その違いは個人で勝手に決めて、多数決で答えになる選挙に似てますね。
というわけで、あいつらです。

②は後日~。

拍手ありがとうございましたーーー!

鈴木と魔女の話。

 僕の家には魔女が住んでいる。

 重要なのはそれが自称であることと、叔母であるということだ。年齢不詳。正直、僕を住まわせてくれると言ってくれるまで存在を知らなかったような相手だ。
 祖父から託されたと言われた言葉をあっさり信じたのは、僕がそうであって欲しいと思ったからだという自覚はある。

 置いてかれたのではなく、捨てられたのだと。あの時の僕はおそらく、今もきっと、それを認めたくないのだ。

「おかえり。ウヤマって子は元気かね?」

 魔女の喋り声はしわがれているが、赤い毛糸を編むその手に皺はほとんどなかった。
 長い銀色の髪を頭の上でまとめて、切れ長の目元で見つめられると不気味だというのが初対面の人間が抱く感情だそうだ。

「本当、魔女はあいつが好きですね」
「うひゃひゃ、お前の方が好きに決まってるだろうに」
「あはは。有難い話ですね。さっさとその汚い口を閉じてくれませんか? 気色悪い」
 大口開けて笑う叔母に言い放って、僕は彼女の座るテーブルの向かい側に座る。

 最初、椅子は三つしかなかった。そのどれもが同じ椅子なのに、カッターか何かで刻まれた文字や絵が描かれることで別の物になった。そして、それは悪魔を魔女に紹介した次の日に一つ追加された。その漆黒の椅子にはつるりとして、文字も絵もないのに存在だけは強かった。

「悪魔は?」

 肩を揺らす楽しげな魔女を横目に、手近を見回す。
 いつもながらこの家に人を誘えないのは、得体のしれないお香の匂いはもちろん、天井に貼りつけられた爬虫類の標本のせいだ。
 祖父が居た時も十字架やら虹色の模様だとか室内なのに一センチ浮いている錯覚を味わったものだが、今よりはよかったのかもしれない。

 ただ、今の僕にはこっちの方が安心する。

「あの子なら向こうで寝ているよ」
 そこで初めて声を潜めた魔女は、長く伸びた爪でテレビの前を指し示した。

 僕の家にはテレビが二つある。一つは地デジ対応の液晶テレビで、もう一つはブラウン管テレビだ。
 後者はあのテレビは霊界に繋がるとかなんとか言って、魔女が捨てずに隅に置いてあるものだ。悪魔はそのテレビに凭れるようにして、寝息を立てていた。

 全く状況が読めない。

 単純に禍々しい室内でそこだけ何も飾り立てられていない分、悪魔は安心したのかもしれない。

「お前が悪魔を連れて来た時はびっくりしたものだけど、なるほどなるほど。それは確かにお前らしいねぇと思ったものだよ」

「天使は召喚するものでもなければ、契約なんてしてくれませんよ」
 彼や彼女は訪れるものであって、呼ぶものではない。祈りを捧げたところで万人を救うわけでもなく、救うからと言って姿を見せるものではない。

「恋する女はいつだって天使さ」

「天真爛漫という言葉でその残虐性が緩和されるなんて、便利ですねー」
 僕は立ち上がり、足音に気をつけながら悪魔に近づいた。

 魔女と悪魔を対面させた時、魔女は変わらず緩みきった笑みを見せていたが、悪魔はどこか鋭い眼差しを向けたまま何も言わなかった。
 数十分もすればいつも通りの悪魔になったので、彼のその行動に意味があったのかどうかは僕の中で違和感として残ってはいた。気になってはいても今は聞かない方がいい気がして、その話題に触れてはいない。
 魔女に悪魔との同居許可を申請すれば、意外にもあっさりと受理してくれ、今に至る。

 普通は悪魔と一緒に住んでいいかと言ってきた時点で疑問を持つものだろう。そうでなくても、少しぐらいは、近くの子どもを攫った可能性ぐらい疑って欲しいものだ。
 あるいは、魔女が本物で、悪魔を見破ったということなのかもしれない。

 目の前で寝息を立てるこの生き物が、本物の悪魔かどうか。
 触れた頬の温度は温かく、摘まむと柔らかいことを僕は知っている。

 それなら、本物だ。

「天使と悪魔の違いはなんだかわかるかね?」
 その爪でくるくると宙に円を描きながら、叔母が言った。
 例えば、中心部分から化け物が出て来ても僕は驚かないだろう。
「翼とかじゃないですか?」
 堕天使と悪魔は同じという説もあるから、それも含めて答えれば叔母は口角を上に引き上げた。

「人が善と決めるか悪とするかさ」

 それはまた、嫌な話だ。
「善だと思えば、それは天使。悪だと思えば、それは悪魔。それだけさ。書物がどうであれ、悪魔も天使も人の形をしているもんだからねぇ」
 目の前の存在の頬を堪能して、抱きあげる。

 人の形。

 子どもと同じ重さで、子どもみたいな姿で、彼ら特有の悪臭もないのだから、ますます区別がつけられない。わかっているのは、そのてっぺんに隠れた角だけだ。

「悪魔を見た事があるんですか?」

 叔母は歌うように答えた。
「あるさ!」
「どんな感じでしたか?」
「あの古本屋の」
「あー、はいはい。わかりました」
 先日、鵜山と行った古本屋のことだろう。
 あの店の店主のことが叔母は嫌いらしい。あの店の袋を持って帰ると、わかりやすいしかめ面になる。

「信じてないのかね。あいつは」

 背後で何かを言っている叔母を無視して、リビングを出た。
 悪魔の息は死んでいるかのように静かだ。そもそも悪魔が寝るんだろうかとも思ったが、あれだけ触られてもいつものように怒らないのならそういうことだろう。

 悪魔、ね。

 叔母の言う通りだ。天使も悪魔も人が決めるのなら、服の黒に惑わされているだけで本当はこの子どもこそが天使なのかもしれない。
 その方が納得できる。
 ただ、それなら認めないというだけだ。

「天使は僕を救えませんよ」

 僕は憂鬱を破壊してしたいのだ。


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