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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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自己流四代目妄想。
こりずに続けてみる。
全部、私に任せるとこういうことなるんだなと思いつつ、楽しんでいる今日この頃。


ヒロイン→鵜山 主人公→鈴木
ということにしてみたのです。

誰かのようで誰でもないような通りすがりAの彼と鈴木くんの話。

 


「君は悪魔を信じるのかい?」

「信じてますよ。ただ、そんな非科学的なものが実在して魔法が使えたら、人間としては困る話ですよね」
 淡い青の中をのんびりと泳ぐエイが、アンの背後を過ぎっていくのを見ながら僕は言った。
 平日午後の水族館は有名観光地でもないこの街で、運動場程度の小さな広さをしている。確か、来年には無くなる予定だったと僕は記憶していた。
 元々、そんなに人も多くはなかったように思う。特別なイベントを行うこともなかったし、誰か有名人を呼べるほどの儲けがあるようでもない。外観も大きな鯨をイメージして造られていたはずだが、その黒色は剥がれたペンキでコンクリートが剥き出しになっている部分も多かった。

 僕の前に立つのは、だいたい二十歳から三十歳の間だろう男だ。曖昧なのは、僕がこの男について知っていることが少ないからである。ついでに言えば、アンと呼んではいるのも本名を教えてくれないからだ。由来は、英語の接頭辞であるun。
「名前なんて必要ない。僕はただの通りすがりのAなんだ。ほら、RPGだっけ? そういうゲームでいる説明役のようなものだよ」
 そう言われたのが一カ月前のことだ。
 いつも水族館にいるわけではない。その前は動物園だったし、その前は喫茶店だ。そして、そのすべてが三カ月以内に無くなっていた。
 それに意味があるのかわからない。偶然ということにしておけばいいのかもしれない。
 けれども気になった。思わず、声をかけた。それから見かける度に、くだらない会話をしている。そういう関係だ。

 ゆったりとした音楽が流れているのに、水の青を強調すべく落としている照明のせいで、足場がやたらと暗く見えた。水槽の中は綺麗に整備されているのに、人間が歩く場所だけは敷き詰められたカーペットが剥がれていたり、ガラスに近づけないための手摺が歪な模様になっていたりして、それなら潰れるだろうなと納得する。

 僕は好きなんだけどね。この優先順位の上が人じゃないという発想。

 それでも人間が困ると口にするのは、一応、僕が人間という種族に分類されるからだ。
「困るかな」
 手摺に凭れかかりながら、アンは不思議そうに口にした。
「どう考えても困りますよ。魔法が実在するなら、それを戦争の兵器にしてしまうのが人間ではないですか?」
 一瞬でどこにだって行ける。一瞬で戻ることができる。逃げるのだって簡単だ。
「でもその兵器を地球外に飛ばすことだってできる。魔法はそういうものだよ」
「使う人間次第という意味では同意しますよ。けれどもそういう風に使う人間なんているわけないじゃないですか。いつだって自分が一番、誰が傷ついたって平気なのが人間というやつです」
 大群になればなるほど、襲いかかる時の脅威が増すのは何もバッタや海中微生物だけではないのだ。人間は理性がある分、よっぽど恐ろしい。

「ということは、君は傷つけられたことしかないのかい? それは違うと思うよ。そうだとしたら、君はなぜ僕に声をかけたのかな?」
「ただの気まぐれですよ」
 暗くてよかったと思うのは、アンの顔があまり見えないからだ。
 その方がいい。まともに目を合わせることを避けるのは、見つめられるその視線が普通とは違うのを知っているからだ。
 何が違うのかというのは説明ができない。纏う雰囲気もたまに読みとれない。例えるなら、不気味なのだ。暗闇から出て来ても違和感がないし、宇宙人だったと言われても疑いつつも本当にそうかもしれないと考えてしまいそうになる。

 だから、気になるんだよ。

「君は嘘をつくのが上手い。けれど、騙せない相手もいるということも忘れないで欲しいものだね。君の近くにいる誰かを君は騙しているつもりかもしれないが、意外に見破られているかもしれないよ」
 手摺を指先で撫でながら言うと、アンは背を離した。
 思い浮かぶ身近な相手の一方は人間で、一方は悪魔である。
 いや、そんな鋭いやつらじゃないだろ。
 鵜山という少女については、感情を凍結させたのではないかと思うほど起伏がないのでわからないが、僕の嘘を見破るという無駄なことをするようには見えなかった。
 悪魔は馬鹿だ。本当に馬鹿だとしか言えない。ただ、そこが可愛いのだと思う。悪魔の癖に悪魔らしくないのには、とても好感が持てた。

「君は騙しているつもりでも騙されているのかもしれない」

 意味ありげに言って、アンが歩き出す。
 それを追うように僕も足を踏み出した。
「騙されるわけがないですよ。信じてもいませんから」
 正しいものなどどこにもない。あるのは嘘ばかりのこの世界で、偽善と諦めを持って生きるのが賢い生き方だ。
 裏切られて悲しいという感情ほど、愚かなものはないと思う。
「でも君は召喚した悪魔とメフィスト・フェレスが繋がっていると考えている」
 斜め前で人差し指を立てて、アンが言った。
「貴方がそう言ったんですよ」
 悪魔を召喚した次の日に、アンとは偶然、喫茶店で出会った。
 書き物をしていた彼に召喚に使った呪文と魔法陣の書かれた紙を見せると、これはメフィストの召喚に使うものだと言ったのである。
「それが嘘だとしたらどうする?」
「別にそれでもいいですけどね。僕としては、あれが本当に悪魔かどうかも疑っていますし」
 ただの子どもにしか見えない悪魔。小さいけれども角は確かにあって、得体のしれない空気を笑顔ですべて無にしてしまう存在。それは天使には必要であっても悪魔にはいらないものだ。

「それでも君は悪魔の存在を信じてる」

「いないと困るんですよ。神や天使がいるなら、悪魔もいないとおかしいと思います。自分に都合の悪いものはいらないという判断のせいで、都合のいいものだけが蔓延る世の中を考えるだけで吐き気がしますね」
「それで、願いは叶えてくれそうかい?」
 僕の言葉をさらりと流して、アンは問いかけてきた。

「いいえ」

 召喚相手が僕だと知った悪魔は、とても嬉しそうだった。
 隣に居た鵜山も珍しく驚いていて、多分、彼女にも魔法陣から現れたのが人間には思えなかったのだろう。
 彼女が動揺しているのをいいことに、僕は悪魔に人類滅亡を願った。
 ずっと考えていたことだ。本物の平和というのは、きっとその先にあるはずである。

 人類が争いを繰り返すのなら、人類らしく排除してしまえばいい。絶滅してしまえばいいのだ。こんな生き物。

 けれども悪魔はそれに怒って、何やら叫んでいて、僕にはどれも届かなかった。
 聞こえなかったわけでも聞かなかったわけでもない。
 ただ、悪魔があんまりにも顔をぐしゃぐしゃにして泣くものだから、単純に驚いてしまったのだ。

「悪魔のくせに破壊する願いを叶えてくれませんでした」
「それなら、悪魔くんで言う白悪魔みたいな存在かもね」
 初めて『悪魔くん』という存在を知ったのは、小さい頃、天使である祖父から聞いた御伽噺のようなものだった。そういうものが、かつて存在したと言われているらしい。
 次に聞いたのが小学校の時で、怪談話に混じって囁かれていたもの。
 そして、最近ではアンから聞いた。

「その悪魔くんというのは、どれが本物なんですか?」

 僕の聞いた話はどれも違ったものだった。ある話では人間に裏切られ、ある話では甘党の大悪魔を従え、ある話では十二の悪魔を従える。たまに同じところもあるが、『悪魔くん』と呼ばれる存在の性格が大きく違っていたのだ。
 召喚したあの悪魔は、僕のことを悪魔くんだと断言した。そういうのはわかるのだと、嫌そうな顔をしていたはずだ。
 僕はこんな面白そうな悪魔を自分のものにできるのなら、悪魔くんでもいいかなと思ったから、その時は僕が悪魔くんでも正しいはずだと口にしたのだ。

 僕は平和が欲しいから破壊する。それで正しい世界を作るというのは、悪魔くんらしい発想だとは思わないかな。

 けれども本当は僕ではないと思っていた。根拠は単純だ。その話に共通する点である人間の平和を含めた千年王国を僕は願っていない。
 どちらかといえば、悪魔くんに倒されるべき相手に近い。そういや、人類滅亡という発想の人物が悪魔くんの話にもいたなと思った。
 彼は目的を完全に達成できずに、最終的には悪魔くんの仲間になったのである。

「本物か偽物かはどうでもいいよ」
「それは思考の放棄だと思いますよ。認められるというのは、偽物ではなく本物なんですから」
 否定されれば、それはもう偽物だと指をさされて罵られるだけである。
「それは勘違いだよ。それを本物にできるのは、観測している者だけだ。この場合、君のことだね」
「僕が本物だと言っても周りが偽物だと言えば、偽物だと思いますけどね」
 たった一人で黒を白だと言い続けていても、何も変わらない。

「そこで君が偽物だと思うから、偽物になるんだよ」

 ぴたりとふいに足を止めたアンに、僕も止まる。気づけば、出口に来ていた。
 先程までの薄暗さの向こう側である外の明かりが漏れている。此処は明るいよと誘いかけるようで、怖いような気もした。近づいてみたらその場に大きな怪物が口を開けているのではないか、という疑念。

「信じられない君のために、一つだけ答えをあげるよ」
 首だけでアンが振り返る。後光で表情は見えなかった。
「悪魔はいる。だから、それを認めて、好きに呼び出したらいい」
「けれどもあれには名前が無い」
 ふっとアンが笑ったような錯覚がした。
「じゃあ、つけてあげればいい。悪魔は呼ばれるのが好きなんだよ。だから、ずっと待ってる」

 悪魔くんは凄いんだぜ。

 そう言った声は、独り言としか思えないぐらい小さくて、光の向こうに消えて行くその後ろ姿を黙って見送った。
 建物から外には追いかけないというのが、僕がアンと会う上で作ったルールだ。
 通りすがりAという存在はただ過ぎて行くものだから、追いかけるべきではない。

「名前、ね」
 そんなの悪魔くんしかないじゃないか。
 千年王国を願っているのはあの悪魔の方だ。人間ではない上に、天才でもない。けれども肝心なのは、願って行動することではないだろうか。 都市伝説である悪魔くん以外に、悪魔という意味ではこんな話もある。

『召喚した悪魔は願いを叶えない。けれども召喚した人間にとって欲しいものは知っていて、それを与えてくれる』

 それが事実かどうかはわからない。僕も実際に悪魔にあった人間を知っているわけではない。
 けれどもそれはまるで、あの悪魔のようだと確かに思ったのだ。

 そうだとしても、僕の欲しいものがわかるわけないじゃないか。
 何しろそんなものは僕自身も知らない。

 目の前の光よりも背後の闇の方がずっと優しく感じるのは、顔を顰めてもその半分は闇に溶けてくれるからだった。


END
 

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