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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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本気出して、さまつらしいさまつ(つまりは腐向け)を書こうとしたら玉砕したので、落書きということで晒してしまえ。後で泣いても知らないよ。
椿屋四重奏の「太陽の焼け跡」とか、椎名林檎の「遭難」を目指そうとしたけどレベルが違いすぎたの巻。

やったあ!拍手ぽちぽちありがとうございますっ!
 



 爪と牙を奪われた獣が生きていけないのなら、せめて牙だけは残しておかなければならいなと思った。
 翳した両手の爪は綺麗な曲線、はみ出した白はない。本のせいで指の腹は濁っても、爪だけは艶やかな違和感。

 神経質で完璧主義の佐藤は目敏く、少しでも伸びたら切らなければならないと動きだすのだから厄介だった。
 ただ切るだけならまだしも、それをさらに削って形を整えるのだ。

 そんな行為に意味などあるものかと思うと同時に、身体から離れた自分の一部分を眺めていると、まるで佐藤に飼われているようだとよぎることがある。

 バカバカしい話だ。そんなことあり得るわけもなければ、認めたくもない。

 それでも真剣に指を見つめる佐藤に手を任せて、切り落とされる爪の音を聞いたり、穏やかな日差しを背中に受けていたりすると、身体中から力が抜けていくのだ。
 眠い、なんて夜には言わないようなことを口にしそうになる。
 心地のいい静寂は、塀の向こう側から雑音がやって来ない限りは続く。松下自身、それを壊したいとも思わなかった。

 その時点で飼いならされているような気がする。冷静になってそれを思い返すと、顔を顰めてしまう。
 次こそは断ってやると思っても、掴まれてしまえば終わりだった。その温度に弱い。
 やたらと丁重に触れるのが一番いけない。掴むでも握るでもなく、そっと触れるのだ。

 男のくせに柔らかい肌も手触りのよさも腹立たしいのに、それを勝る感情がある。
 気に食わないと思う。思うだけで目を閉じている。結果、後悔する。その繰り返し。
 そうして、爪は諦めた。残された牙はそう簡単に奪えないだろうから、守り切れるはずだ。

 ただ、佐藤は裏切る存在であるからして、予想は覆されるものなのだ。


 吐き出された呼吸がやたら熱い。許された酸素は一瞬だけ、すぐにまた二酸化炭素を強制的に送られる。
 やたら強く握られた手首が痺れて、抵抗の際に攣った足が痛んだ。
 幸いなのは、背中にあるのがコンリートの壁ではなく、ベッドであることぐらい。

 状況は至って単純。松下は佐藤に押し倒されていた。

 そうして、下から自称瑞々しい美青年を見ている。いつもは整っているその黒髪は、松下の抵抗を受けて流れを失い、今では汗で濡れていた。落ちそうな唾を飲み込む度に、その色白な喉仏が上下する。
 それでも防ぎきれない赤が、シーツや松下に色をつけていた。
 唇が合わさる度に血の味が広がって、それに付随する光景にいつかの傷が痛む。

 ただ、今回佐藤に傷をつけたのは松下だ。

 どうしてこうなったのかという質問されたとしたら、松下はわからないと答えるだろう。
 寝ている佐藤の顔を覗き込んだというそれだけの間違いで、目が覚めた彼の瞳に自分が映った。
 佐藤が伸ばした両手が頬を掴み、引き寄せられるような最初に口づけ。反射的に思い切り噛みついた。そうすれば回避できると思ったのだが、考えが甘かった。
 痛さに佐藤は顔をしかめたが、急に何かを吹っ切ったような表情を見せて、抵抗する松下を無視して現在に至る。

 時間の感覚はとっくにない。時計も近くになければ、それを探す余裕もない。
 酸素不足で明滅する脳と一瞬の酸素を少しでも多く取り入れようとする行為だけで、心身ともに精一杯だ。

 無言空間に衣擦れと息遣いだけ。
 何か言えばいいのに、佐藤は何も言わない。
 衝動的に行動して、それでも根が臆病者だから、これ以上の行為を躊躇しているのだろう。引き返せばいいのに、それすら怖くてできない。

 癪に障る。このまま、大人しくするのもバカらしい。

 熱に浮かされた虚ろな瞳で、どれだけ状況を理解しているのやら。倒れ込むように耳の横に顔を埋めた佐藤からは汗の匂いがした。
 額をシーツにあてて、上下する肩を見ながら、無防備にさらされた耳を眺める。

 爪は奪われようとも牙はある。
 それなら、やることは一つだ。

 食いちぎらんばかりに噛みつけば、佐藤の身体が跳ねた。叫び声を上げそうになったのを堪えるべく、歯を食いしばる。松下を引き離そうとする手を無視して、自由になった右手で佐藤の首に触れる。
 抵抗が服従に変わるのはそれだけで十分だ。
 ゆっくりと食いこませた歯を抜く。

「許せよ。佐藤」

 この感情を、僕は認めたくないのだ。

 

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