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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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とうとうやってしまいました。
前にあげた個人的な四代目妄想で書いてみた。
名前を考えるのが凄い苦手で、どうしたものかと考える今日この頃。

そんなわけで、ヒロインと悪魔。



「よくわかんねぇんだどさ」
 隣に座っている悪魔はそう言って、渦巻状の大きなキャンディーにかぶりついた。
「おれは落ちこぼれってらしいんだ」
 発達した真っ白な八重歯でがりがりと砕かれるキャンディー。顔の半分もあるそれが、あっという間に三分の二になってしまう。
 この悪魔は、悪の権現としての悪魔とは違う。そういう意味では、悪魔界、というのかわからないが、その世界では落ちこぼれとなるのは当然だとも思えた。
「そう」
 私は頷くように言いながら、持ちうる言葉が少ない自身に少々うんざりしていた。
 冷たい風が吹き抜ける公園のベンチ。近年の事故の増加に伴って、遊具のいくつかは撤去され、残っているのは砂場とペンキの剥がれた象の滑り台だけになっていた。


 放課後の小学生は、今頃、家に籠ってゲームでもしているのかもしれない。子どもに見捨てられた公園があまりにも寂しすぎるから、私は寄り道ついでにぼんやりとしていることが多かった。
 今日はたまたま彼が先にベンチに座っていたのである。黒いカッターシャツに黒いズボンをつけた小学生ぐらいの子ども。硬質そうな髪の毛を見ているとハリネズミを思い出しそうになる。その下にはとても小さいが角が生えていた。
 この子は人間ではない。一週間前、私と鈴木くんで召喚した悪魔だ。
 彼は悪魔を一目で気に入ったらしい、相変わらずではあったがどこか嬉しそうだったのを覚えている。悪魔といえば、鈴木くんの性格の悪さに怒っていた。その気持ちには同感である。まるで、彼の方が悪魔に見えるぐらいに、悪魔の方が喧嘩は好きじゃないとか悪い事はよくないと口にして、鈴木くんをまともに相手にしていた。
 だいたいは、二人で行動している。というか、彼が一方的に呼びだして、連れ回すことの方が多いように思えた。
 一緒にいないのは逃げてきたか、何かあったかだろう。

 両足をぶらぶらと揺らしながら、真っ直ぐと見据える悪魔は威圧感だけを振りまいていた。視線を辿るがあるのは、緑化運動で植えられた植物と高層マンションだけである。
 どこか寂しげに見えた気がして、声をかけようと思った。思ったのだけれども私にはできなかった。
 何も持っていないことに気づいてしまったのだ。

 それでは駄目だ。私は私がいかに無力でどうしようもないか知っている。
 ポケットを探ってみるが、たまにある飴玉やガムもない。冬だからチョコレートでもいいのにと思って、私は持っていた手提げ鞄を持ち直して踵を返した。
 現代社会はとても便利だ。近くに販売機がいくつも並んでいて、スーパーまで行かなくても二十四時間のコンビニ行けば何でも買える。

 数十分して公園に戻って来ると、悪魔は先程と変わらぬ姿で座っていた。
 よかったと白い息を舞わせながら思う。
 走ってきたせいで、マフラーはぐちゃぐちゃになっていた。それを巻き直しながら息を整える。
 今日の空は青くて、雪が降る様子はない。どうか降らないで欲しいと思った。
 そうしたら、もっとこの場所はもっと寂しくなってしまう。冷たくなってしまう。
 心の中で願いながら一歩を踏み出して、それなら温かいものを買って来ればよかったと後悔した。
 けれども今更、引き返すわけにも行かずに近づくと、ふっと悪魔の視線が向いた。
 鳥肌が立つほどの気配を感じたのは一瞬だけ、すぐにその子どもは猫みたいに笑った。悪戯というよりも纏わりつく時の猫のよう。

「よぉ。じゃなかった、こんにちはだっけか?」

 隣まで来ると見上げてくる悪魔の目は虎目石に似ていた。黄色くて、中心に黒い瞳。

「よぉ。でもいいわよ。悪魔くん」

 視線を合わせるようして言えば、僅かばかり眉間に皺を寄せた悪魔は、柔らかそうな頬を白い手袋越しに掻いた。
「あのさ。悪魔くんはやめてくれねぇか。おれは違うんだって」
 悪魔くんは世界を救う存在だとこの悪魔は言った。けれどもどうやら、本物の悪魔くんはあいつの方らしい。それにショックを受けた悪魔の泣きそうな顔が、私にはどうしても忘れられなかった。
「けれども君の方が私には救世主に見えるわ」
 だからきっと、鈴木くんが悪魔でこの子が悪魔くんなのだと勝手に結論づけた。
 この悪魔はとても優しい悪魔だ。同じくらいにとても脆い子どもだと私は思う。
 誰かが手を差し伸べてやらなければ、どこにも行けなくなってしまう。最後には自分自身を殺してしまう。

 それは嫌だわ。そんなことはさせない。

「ふへへ。あんがと。座りなよ、お嬢さん」
 気取ったように口にした悪魔は、隣にスペースを作ると手袋で軽くその場を撫でた。
「紳士ね」
「ただの真似事さ。けど、女の人と子どもには優しくあるべきだろ?」
「そうすべきでも実行することはとても難しいわ」
 言いながら、鞄に手を入れる。ぴくりと悪魔の鼻が反応した。

「甘い匂いだ」
「ええ。甘いものよ」
 期待に満ちた瞳を向けられて、自分がサンタクロースになったような気分になる。

 いい子にはプレゼントを上げる素敵なおじさまは、私にとっては理想だわ。

 勿体ぶるようにゆっくりと手を引き出して行く。猫のような瞳がそれを追う。
「おお! すげぇ! でけぇ! まるぃ!」
 ぐるぐると巻かれたそれを見ながら、悪魔が弾んだ声を上げた。キャンディーと同じくらい丸くなった目に、今にも涎を垂らしそうな口元。
 本当に甘いものが好きなのね。
 鈴木くんが激辛ならこの悪魔は激甘だ。それは性格にも似ていて、とてもわかりやすい。
 それはつまり人を選ぶのよ。
 私はどちらでも構わない。ただ、苦いのは避けたい。

「隣を空けてくれたお礼に」
 握っていた棒ごと悪魔の前に差し出す。 冬なのを忘れそうなくらいに破顔するのを見て、笑みを浮かべたいのに上手くできなかった。
「いいのか!」
「ええ」
 受け取る手は小さくて、それでいて冷たい。けれども平気だ。
 伸ばされた悪魔の右手で、赤と白で作られたミサンガが揺れる。
 悪魔に呪い書くと不穏な空気でしかないけれども、これは『のろい』ではなく『まじない』なのだろう。

「あんがと」
 頬を少しだけ赤くして、照れ臭そうに言った横顔を見つめる。
 素直な子どもだと思った。今の子どもはこんな顔をしない。
 親しくもない人から物を与えてもらってはいけません、と親は教える。

 信じることは裏切られることだと言われるのだ。相手が敵か味方か、子どもは見分けることができない。その判断基準がない。ならば、いっそのこと全部、排除してしまうのが簡単だ。
 そうやって、世界は徐々に閉ざされていく。行き場所を失って、道に迷って、けれども誰にも聞く勇気がないのだ。信頼できない相手に尋ねても疑ってしまうだけである。

 それならどうすればいいかなんて、私にはわからないけれども。

 悪魔が包装紙に手をかける。どうやら、上手く開けることができなくて、四苦八苦しているようだった。
 何度も手を止めて、目を細めながら中途半端に破れた包装紙を眺め、再び手をかける。
「手伝う?」
 すでに手を出したい気持ちで、指先を曲げたり伸ばしたりしていた私が堪え切れずに聞けば、悪魔が顔を向けた。
「悪ぃが、気持ちだけもらっとく」
 笑ってそう言うと、再び開ける作業に戻る。
 さすがに頼られるほど仲良くはできていないのかもしれない。
「そう」

「甘えるのは好きなんだけどさ」
 不格好ながらに包装紙を開けた悪魔は、ぽつりと言う。
「おれ、これ以上、駄目になるのが怖ぇんだ」

 がぶり。
 二度目の噛みつきに、キャンディーはあっという間に手の平サイズまで小さくなっていた。
 もごもごと口を動かす度に、あっさりと粉々になる砂糖の塊。本来なら舐めて食べるのが一番、長く味が持つはずだ。
 そうやって食べるから、痛むんじゃないかしら。
 甘いものは必要だ。べたべたでどろどろで、たまに胸やけを起こすけれども貴重なものだ。
 スパイスばかりを取り過ぎると、あいつにみたいになってしまうわ。

「悪魔くんっていうのは、救世主なんだ」
「そうらしいわね」
 最初に召喚された時に、同じことを悪魔は言った。 その時に悪魔くんが何たるかを聞いて、恐らくは現代における悪魔くんがどうやら鈴木くんだということも。
「出会えば、世界が変わるんだ」
「彼にそんな力があるかしら?」

 頭に浮かぶのは、人の不幸を至福にしてしまう少年。小学生の時に彼が祖父は天使なのだと口にして、いじめられていたらしいと聞いたのを思い出す。
 でも、あいつに天使の血が混じっているというのなら、納得できることもあるわ。
 普段の話し方はゆっくりと丁寧だ。音域が広いので、どれが地声なのか私もわからない。けれども相手によって使い分けているように見えた。

 なによりも彼の歌には言い知れぬ力がある。それだけは確かだった。

 私も好きよ。あの声は。
 特に聞いたことのない音楽を口ずさむ時に、抱きしめられているような感覚がする。
 そう、その時は天使なんじゃないかと思うのよ。

「わかんね。でもあのメロディーを知ってんだったら、そうなんだろうよ」
 顔を歪める表情を見て、そういえば彼の鼻歌に悪魔がのたうち回っていたのを思い出した。
「それって、ソロモンの笛じゃないのにって言ってた時の?」
 悪魔が小さく頷く。
「本当だったら、ソロモンの笛でしか悪魔は支配できねぇんだ。悪魔くんしか、それは吹きこなすことはできないとも言われてるし、笛そのものに力があるとも言われてる」
「本来なら自由な悪魔が人間に従うという意味では、世界が変わるわね」
 その人間を悪魔は選べないのだろう。今の悪魔を見る限り、そう思う。

「違ぇんだ。そういう意味もあんだろうけど、なんていうか、悪魔くんの傍は何かが起こるって決まってんだ」
「何かって?」
「わかんね。それは世界滅亡かもしれねぇし、人間界に魔界とか地獄界が介入することかもしんねぇ。とにかく、何かあるんだ。悪魔くんをそういう危険から守るのと、必要なら協力するのが、おれの役目だ」

「役目だからそうするの?」
 それならやめておくべきだ。あいつみたいなのに近づくと、この子は傷つくだけだろう。
「そうじゃなくてもする。おれは楽しいのが好きだし、あいつとは一応、縁もあるんだろ? 多分」
 曖昧な言い方をして悪魔は首を傾げたが、すぐにぶんぶんと横に振った。

「いや、あんだろ。嫌いだけどな。嫌いだけど、じゃあって離れるわけにはいかねぇし」

 食べ終わったスティックを上下に動かして、悪魔はベンチから飛び降る。
「キャンディー美味かった! そろそろ帰るだろ?」
 ぐるりと半回転して私の前に立つ悪魔の後ろで、空が橙から紫に変わりはじめていた。
「ええ。そうね」
 立ち上がろうとすると悪魔は手を差し出す。
「お手をどうぞ」
「ありがとう」
 緩やかに引っ張られて立ち上がる。
「家まで送る。荷物を貸しな」
「大丈夫よ。これぐらい」
 まるで、ドラマに出てくる王子様か何かのようだと思いながら言えば、悪魔は小さく笑って頭を下げた。

「わざわざおれのために、キャンディー買ってくれたんだから、持たせてくれ」

「気づいてたの?」
 それはとても恥ずかしいことだ。
「ふへへ。鎌かけたんだよ」
 そう言って私の鞄を取りあげる悪魔は、楽しそうに見える。
「誰かと違って、優しいよなぁ」

 それは君の方よ。

 口に出なかったのは、右手を掴まれたからだ。
 前のめりになるのを堪えて、歩き出した悪魔に引かれるまま足を進める。
 子どもなのは私の方ね。

 さりげなくマフラーをずらして、よけいなことを言いそうな口を隠した。

END
 

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