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食卓に珈琲とチョコレートとラーメンを。

悪魔くん二次創作と管理人のきまま語りが主な内容。 苦手な方はプラウザバック推奨。 四代目シリーズ、絶賛応援中!

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気づけば三時を越えてましたが、夜におやつというわけにはいきませんね。
お腹が空きました。

久々の更新のあいつらです。

鵜山と悪魔。ちょっぴり鈴木。

拍手押してくださりありがとうございましたー!




 床に向かって落下した鉛筆は、柔らかな手に落ちた。
 ぼんやりと頬杖をついていた顔を上げる。差し出された鉛筆の持ち主は、胡散臭い表情で私を見ていた。

「ありがとう」

 午前中最後の授業はいつの間にか終わっていたらしい。
 昼食を買いに行くクラスメイトが教室を出て行った。

「何を物想いに耽っていたのかわかりませんが、鉛筆なんてレトロな文房具を使っているなんて、相変わらずおかしい奴ですね。お前は」
「そこはどういたしましてだけでいいのよ」

 いつも通りの喋りに肩を竦めて、鉛筆を取った。
 自分以外の温度に一瞬でも触れたそれは、自分ものではないかのような錯覚。握り締めめて、この手にあることを確認する。

「そうですね。つい本音が出てしまうのが悪い癖ですね」

「わざとでしょう?」
「わざと? 人を疑うのはよくないと思いますよ。信じる者は救われるって言葉もあるぐらいなんですから」
 斜め三列目で会話する女子が、私の方をちらちらと眺めて何かを話している。
 だいたいの話の内容は想像がついた。わかっているのに鈴木くんは声をかけてくる。それなのに怒っているのだ。
 今だって、笑いながらも目の奥は鋭い。
 放っておけばいいのにとも思うが、それも今更な話ではあった。

「もう行くわ。あなたもよけいな人に捕まらないようにね」
 横に掛けていた手提げ袋を手に取って、立ち上がる。
 昼休みになら私は教室から出て行かなければならない。
 雰囲気を乱すのは知っているし、何より。

「――くん」

 誰かが彼の下の名前を口にした。
 私はそのまま歩き出す。
 同時に振り返った鈴木くんが、背後のクラスメイトに向かって笑みを浮かべた。
 嘘ばかりね。


 指定席に近い中庭の古びたベンチには、カップルが座っていて引き返すしかなかった。
 階段を昇りながら校内の地図を思い浮かべる。
 すれ違う生徒の波は私を障害物としか思っていない。
 こういうのが楽だった。異物扱いされることに抵抗はない。
 ただ、すべてを容認できるほど物わかりがいいわけではない。中途半端な干渉は無視をするべきだと重いながら過剰反応してしまうのは悪い癖だった。

 さすがにガラスを叩き割るなんてことはもうしないけど。

 いっそ、不干渉でいてくれた方がいい。
 誰もいない場所といえばトイレというのもあるが、それは避けたい。衛生面はどうでもいい。万が一、入ってきた生徒が悪口を言い合っていたら気分が害されるのが嫌だった。

 特別教室の並ぶ階に辿り着く。一番奥にある音楽室の鍵は次の授業がないこともあって鍵が掛かっていたが、三番目の窓が開いていることは知っていた。近くに人がいないことを確認して中に忍び込む。
 数ヶ月ほど窓の鍵は壊れたままなのだが、誰も直さないのだろうか。
 不規則にならんだ椅子には座らず、後ろ手に窓を閉めた。防音設備のなされた室内は静寂に包まれていて、足を踏み出すとその音がやたら大きく聞こえる。扉の前に移動してしゃがみこんだ。
 20分ほどで食べ終われば間に合うだろう。
 手提げから取り出した縞模様の弁当箱の包みを開きながら、ふいに隣に視線を向けた。

「いつからいたの?」

 一瞬驚いたものの怖いものでもなければ、嫌なものではなかった。

「悪魔はどこにでもいるもんだぜ」

 あぐらをかいて座っていた悪魔はそう言って、悪戯小僧のような顔で笑う。
 彼の言う通り、そういう存在は神出鬼没と相場が決まっていた。
「それもそうね」
 学校で見かけたのは初めてである。
 途中で誰かにすれ違うことはあったのだろうか。それとも近くにいたけれども、気づかなかっただけなのかもしれない。
 弁当箱を持って今日の中身を思い出すが、隣の悪魔の好きそうなものが菓子類と麺類以外に思いつかないうえに、該当するおかずはなかった。

「ミートボールは好きかしら?」

 何の話かと軽く小首を傾げた悪魔は、私が一瞥した視線の先にある弁当を見て目を丸くした。
「嫌いじゃねぇけどそんなちっこい弁当から貰うわけには」
 いかないと言いかけたその口に、箸でミートボールを放り込む。悪魔は眉を下げて、口を動かした。

「ちゃんと手作りだったらよかったのだけど」

 冷凍食品と白飯以外ならそれしかなかったのである。
「甘いソースは好きだぞ」
 ちゃんと飲み込んだ悪魔は甘いもの好きらしいことを言った。
「私も好きなの」
 これが鈴木くんなら、やはり辛いものを選ぶのだろう。それせいか、子ども向けが多いミートボールの冷凍食品は好きではないらしい。
 ミックスベジタブルを口に入れながら、一人の時はあまり食べないだけで小食というわけではないということを言うかどうかを迷った。
 言ってしまうと心配させてしまうだろうか。

「もうピアノは弾かないのか?」

 意外な質問は、それ以上に意外な相手の口から飛び出した。
「えっ」
 見上げてくる猫目を見返して、果たしてそんな話を鈴木くんにしたがどうかを考えたがどうだったか思い出せない。
「ピアノは……もうやめたの。私よりずっと姉さんの方が上手だから」
 今は大学生三年生である姉は彼氏がいるせいか家に帰ってくることは少ない。少ないが、帰ってこないわけではないのだ。
「そっか」
 教室の壁際においてあるグランドピアノを眺めて、悪魔は肩を落とした。

「ピアノが好きなの?」

「綺麗な音楽は好きだ。あっ、賛美歌とかは好きじゃねぇよ。そういうんじゃなくて」
 口に白い手袋の手を当てながら、悪魔は小さく唸る。
「どういうものであれ、心が乗っかっている音楽は綺麗なんだ」
「音程も音もはずしたものでもいいってことかしら?」
 それでは不協和音と変わらない。
 箸を摘まんだ春巻きは穴が空いていたのか、肉汁が零れていた。
「そしたら焦るだろ? 失敗を取り戻そうとする。諦めるやつもいるけど、それでも持ち直そうとするやつは好きだ」
「そういう前向きさが好きってことかしら?」

「人が足掻くのを見るのは好きだぜ」

 一瞬だけ目を細めて、何か思うところがあったのか失言したとばかりに悪魔は罰が悪そうな顔をした。
「いや、でも、苦しめたいとかじゃなくて」
「弁解するようなことなんて、言っていないじゃない」
 微笑み一つあれば安心させてあげられるのになと思うだけで、表情にはならない。
「それならいいんだけどよ」
 俯いて悪魔は視線を彷徨わせた。
 そうだと言ってくれた方が悪魔らしいのに。

「ありがとう。慰めてくれて」

 下手だからピアノをやめたと悪魔が考えたのなら、今の流れはそういうことだろう。
「ミートボール一個分ぐらいの役には立ったか?」
 顔を向けて問いかける悪魔に、そんなことを気にしてくれていたのかと驚いた。

「そこにいてくれるだけで十分よ」

 食べ終えた弁当の片付けをしながら言えば、隣で悪魔が胸を撫で下ろす。
「それは嬉しいことだな」
 同じことを私はこの悪魔に対して思ってしまった。
 近くに誰かがいるのといないのとでは食事の味が全然違う。

「機会があったら」

 それは言うべきではないと頭の中で声がしたけれども無視した。

「弾いてあげる」

 相手は人ではないのだから、許されてもいいじゃない。

「楽しみにしとく」
 遠足前の小学生みたいな笑顔を見せられると、本当なら今すぐにでもあのピアノの蓋を開けてしまいたいとさえ思ったが、次の授業が迫っていた。
「そろそろ行かないと」
「気をつけてな」
 答え返そうとして隣を見ると、悪魔の姿はすでに無かった。
 実はすべて幻覚でしたと言われたらどうしようと思ったが、舌の記憶にミートボールの味はない。

 窓枠を越えて廊下に降り立つ。電気が少し眩しい。そういえば、音楽室は薄暗かったと思った。
「心を乗せる、か」
 それなら、表情にできない感情を伝えられるだろうか。
 他の誰にも見えないように、その相手にだけ伝えられる手段が欲しい。
 そこまで考えて首を振った。
「駄目ね」
 両親にピアノを褒められた時のことを思い出して、それはいけないと思い直す。

「喜びを隠せなかったら駄目なのよ」

 それならいっそ、関わるすべてを断絶すればよかったのに。
 けれど、鈴木くんにはどうしても声をかけたくて仕方が無かったのだ。
 天使の孫であり、魔女の叔母を持ち、ついには悪魔を召喚してしまった人。
「私は全部信じているわ」
 実際の魔法を目にしたわけではないが、それを無いと否定したくはない。
 そうでなければ。

「ただの犬死にじゃないの」

 唇を噛みそうになって、大きく首を振った。
 今は考えてはいけない。教室に戻れば否応なしに鈴木くんに声をかけられるだろう。気づかれてしまうと厄介だ。

 私は救われなくたっていい。
 ただ、だからこそ、誰かがが犠牲になる前に彼には救われて欲しいのだ。

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